4話 結成

「あれっ? カレンちゃん、その子だれー?」


 ティナがレナの存在に気づき、目を輝かせながら声を上げた。


「今回の助っ人でございまーす」


 カレンがおどけた調子で言いながら、ふざけたポーズを取る。その態度にリアは早くも眉をひそめたが、ティナはその話を聞き流すようにレナへと歩み寄る。


 「助っ人? …てか、この子さっき街で見た! めっちゃ話題になってたよ、『なんかすごい新人看板娘が現れたぞ!』とか『言葉巧みに客の財布の紐を緩ませる恐ろしい魔女がいる!』とか!」


 ティナの言葉に、レナは目を丸くしながらも照れたように頭を掻いた。


「いやー、なんか照れますなあ……」


「何照れてんのよ……」


 リアが呆れたように呟きながら、カレンに吐き捨てるように言う。


「で? そんな子連れてきてどうするつもりよ、ナマケモノ。あんた、私たちのこと旅芸人かなんかと勘違いしてるんじゃないの?」


 リアが冷たく吐き捨てるように言うと、カレンは眉を上げてにやりと笑った。


「あ、その発想は無かったわ。でも、あんたとティナとこいつのトリオなら良い線行けそう……ブッ」


 カレンはリア、ティナ、そしてレナの顔を順番に指差しながら笑いを堪えて言った。


 その言葉を聞いて、三人はほぼ同時に声を上げた。


「なんであたしも含まれてんの!?」


 レナは目を見開き、思わず身を乗り出して抗議する。


「カレンちゃんひどーい。でもそれだとボケ担当いなくない? この子は見るからにツッコミ担当だし、ウチら二人は真面目だし、ボケなんてできなそーだしー」


 ティナは腕を組みながら真底不思議そうな様子で首をかしげた。リアが速攻で食ってかかる。


「いや、ボケ担当はあんた一択だよ、この無自覚バカ女。……ってそうじゃなくて!」


 リアがティナに厳しい視線を送りながら声を荒げる。だがその横では、テーブルの端っこで気弱そうな少女と大人しそうな女性が顔を俯け、肩を震わせている。

 そんな中、リアは机を叩いて勢いよく立ち上がると、カレンに詰め寄った。


「あんたね、今ふざけてる暇は無いって分かってるの!?」


「ふざけてないって、リーダー。この子、こう見えてめっちゃ強いから」


 カレンは肩をすくめながら軽い調子で返す。その態度に、リアの眉間にはさらに深いしわが刻まれる。


「こんなちっこくて愛想振り撒くしか能がなさそうなやつが強いわけないでしょ!」


「いや他人に対しても当たり強いなお前!」


 突然割り込んだレナが声を上げる。言われたリアが一瞬ギロリと睨みつけるも、すぐに視線を逸らした。


 だが、その時だった。カレンがため息を一つつくと、いつもの軽口を封じたように、低く重い声で口を開いた。


「レナ・カローネ」


 その名前が発せられた瞬間、まるで場の空気が一変したかのように静まり返る。ティナの口元に浮かんでいた笑みも消え、全員がカレンを注視した。


 カレンは続ける。


「みんなも知ってるでしょ? この子が、あのレナだよ」


「え……?」


 気弱な少女――クララが恐る恐る顔を上げ、その横で微笑を浮かべた女性――ルルは小さく目を細めた。一方、リアは目を見開き、ティナはぽかんと口を開けたままだ。


「うっそ! マジであのレナ!? なんかヤバい魔女狩りまくってるって噂の――」


 ティナが勢いよく声を上げるが、リアが静かに遮る。


「あんた、本当にレナ・カローネなの?」


 リアの瞳には疑念と興味、そして警戒の色が宿っていた。


「あー……そうだけど?」


 レナは少しためらい、気が引けた様子で答える。その一言で、全員の視線が一斉に彼女に向けられた。


「えー、ヤバ! 本物!? 噂には聞いてたけど、もっと怖い感じの人だと思ってた~! 実物めっちゃ可愛いじゃん!」


 ティナは目を輝かせながらテンション高く声を弾ませる。その軽い調子に、リアは呆れたようにため息をつき、手でティナを制した。


「ティナ、黙ってて」


「えー、なんで~?」


 不満げなティナを無視し、リアは再び鋭い目をレナに向けた。そして、真剣な声で問いかける。


「一つ質問していいかしら」


「あ、はい……」


 急にすごまれたレナは、一瞬たじろぎながらも頷いた。


「あなたは私たちの敵なの? それとも味方?」


 その言葉は鋭く、まるで剣を突きつけるかのようだった。レナは慌てて手を振り、即座に答えた。


「み、味方だよそりゃ! あたしは魔女を狩って金稼ぎたいだけで、あんたら協会の邪魔するつもりはないって!」


「だよねー! ほら、リアちゃん、味方って言ってるし安心安心!」


「……」


 リアは冷たい目でティナを睨むが、レナの言葉に真剣さを感じ取ったのか、深く息を吐いて椅子に座り直した。


「……まあ、いいわ。少なくとも今のところは敵じゃなさそうだし」


 その言葉に、レナは内心ホッと胸をなでおろす。


 一方、ルルは微笑を浮かべたまま静かに言った。


「でも面白いね。これって敵か味方か、そんな単純な話じゃないと思うけど」


 ルルの柔らかな声に全員が一瞬黙り込む。だが、気まずい空気を感じたクララが慌てて口を開いた。


「で、でも……噂通りなら、カローネさんって強いん……ですよね……? それなら、その……一緒に来てくれたら、すごく心強いと言います か……」


 おどおどしながらの提案に、ティナが勢いよく手を叩いた。


「それな! じゃあ決定~! レナちゃんは私たち『リア・アッシュ討伐隊』の仲間ってことで!」


「変な名前つけないでくれる!?」


 リアが本気で嫌がり、顔を真っ赤にして怒鳴る。その様子を見て、カレンが肩をすくめながら口を挟む。


「違うよティナ、『チーム旅芸人』だよ」


「おー! いいね〜! めっちゃ楽しそう!」


「うん、素敵!」


 ティナとルルが同時に同調する。二人の軽い調子に、端っこにいたクララは苦い笑みを浮かべた。


「あのー……みなさん?」


 そんな中、レナが気まずそうな様子で口を挟む。


「あたし、別に行くとか一言も――」


 その言葉をカレンがあっさり遮る。


「金貨五枚、これ私からの依頼料。協会からの討伐報酬も別払いで渡す。ど?」


「やりますっ! やらせていただきます!」


 今日一番の元気な声がギルドに響き渡った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る