第8話
「よかったのですか?お嬢様」
「なによ、文句あるの?」
喫茶店の中で、グラスを磨く細身の男性へ白亜は振り返らずにそう返した。
その男性、
「まさかお嬢様が、お友達まで殺害者に仕立て上げるとは」
「仕立てあげたんじゃない。あの子がしたいことを手伝ってあげただけよ。………それと、私あの子のこと好きになっちゃったし」
「微笑ましいですね」
「なんかウザっ。あんたのそういうところが気に食わないのよ」
いつも通りの会話の中で、誰もが違和感を持つ言葉に二人は反応しない。
それはもう、この二人の間では当たり前のことになっているからだ。
「……人を二十人殺すと、能力を神から授けられる」
この世界の、殺害者しか知らない常識。一般人に伝えることは禁じられていて、それを行ったものには神からの罰が与えられる。
白亜は瑞希を手に入れるため、半ば強引に殺しまで誘導した。
「可愛い子がいてくれたら私嬉しいし、戦力も増えたし、ウィンウィンでしょ?」
「そうですね。お嬢様の言う通りですね」
本当にしみじみ思う。この白亜という少女に備わった天性のカリスマ性。彼女が望むものを手に入れられるように世界ができているのではと思うほど、人間は彼女に絆される。
鏖間もその一人だ。
「本当に破天荒なお方だ」
「馬鹿にしてる?」
呟きが聞かれた鏖間はわざとらしく口元に手を当てる。その仕草にイラつきながら、白亜はカフェラテを飲み続けていた。
ふと、喫茶店の扉が開かれてベルが鳴った。
「いらっしゃいませ」
鏖間の爽やかな声。それについで何人かの足音が聞こえて、
「ここが?」
「そうッスよ
「そんな死語久々に聞いたわ」
「マスター鏖間!コーラある?」
「お兄ちゃん!ここ喫茶店!コーヒー頼む場所でしょ!」
「その認識もどうなんだ?」
四人ほど今の白亜が来ている制服と同じものを来た少年少女が来店してきた。全員顔見知りだ。それに加えて、全員白亜の『仲間』であるのだが、今日は喫茶店に来るようには言ってない。
「白亜ちゃん……皆呼んじゃった」
四人の後ろからひょいと可愛い顔を出した女の子。今は精巧な義手で両腕があるその子は、申し訳なさそうに白亜に話しかけてきた。
白亜は髪をかきあげ、ため息をついた。
「なんで謝りたそうなのよ。言ってるでしょ、あなたの好きになさいって」
「──ふふ、うん、喜んで」
自然と出てくるようになった少女の笑顔に毒気を抜かれ、白亜も同じように微笑んだ。
これが、今の彼女らの日常だ。幸せな、普通の高校生の日常なのだ。
「見てくださいッスよ快斗さん。瑞希さんの笑顔、100万点じゃないっスか」
「俺には絶対向けないそれな」
「なんで?快斗なんか悪いことしたのか?」
「やめなよお兄ちゃん……きっとフラらたんだよ」
「あーね」
「納得するな!断じてそんなことしてない!」
そんな瑞希と白亜の『仲間』達は、今日も今日とて、楽しい日常を作り上げていた。
水溜まりを踏みしめた少女 快魅琥珀 @yamitani
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