1章ー⑧
そして迎えた昼休み。
いつもより大きなお弁当箱を持って非常階段へと向かう。
いつもの定位置に腰を下ろして少しすると、ここ数日と同じように枢が非常階段を上がってきた。
いつもは踊り場の壁に寄りかかっている彼だが、今日はそこを通り過ぎ瀬那の隣に腰を下ろす。
本当に食べる気なのか。
緊張気味にお弁当箱を開け、おずおずと割り
「あの、これ……」
無言で受け取った枢は、箸を割るとお弁当に手をつけた。
目の前で自分が作った料理を食べる枢を観察する。
味は大丈夫か表情を
ここは思い切って聞いてみる。
「味、大丈夫?」
すると、「ああ」と簡単な一言が返ってきた。
瀬那はほっとすると同時に、なんだか不思議な気持ちになった。
あの一条院枢が自分の作ったお弁当を食べているのだから当然だ。
ファンの子ならば卒倒しているに違いない。
その後は特にお互いなにかを話すことも視線を合わせることもない。
瀬那もいつも通り本を読みながらお弁当を食べていく。
だが、最初に感じたような気まずさはまったくなかった。
そんな昼休みを送るようになった日以降、あんなにしつこかった愛菜はすっかり近付いてこなくなった。
美玲に助けてもらう必要もなくなり、よかったと瀬那が
今、瀬那のクラスの雰囲気は最悪だった。
愛菜が、花巻たちのグループから離れ一人で行動することが多くなった小林さんに目をつけ、話しかけるようになったまでは問題ない。
小林さんも話し相手がいることで、一人でいる居心地の悪さを感じずにすんでいたようだから。
問題はその後。
愛菜は仲良くなった小林さんを枢たちのところに連れて行き、そこで話をするようになったのだ。
仲のいい子を紹介するためだろうが、愛菜は後のことを一切考えていなかった。
一条院枢や和泉瑠衣、神宮寺総司と関わり合いになりたいと思う者は大勢いる。
だが、近寄りがたい雰囲気を常に発している枢により、それは中々できることではなかった。
そんな中、クラスでも目立たない小林さんが突然枢たちに関わるようになれば、それに
顕著なのが、以前小林さんと行動していた花巻グループである。
派手で目立つ花巻たちが、正反対の印象を持つ小林さんを下に見ているのは誰の目にも明らかだった。
そんな小林さんが、枢たちと関わるようになったことが花巻たちは許せなかったのだろう。
最初は誰にも気付かれることなく、けれど次第に目立つように小林さんを
同じく枢たちと関わる愛菜だが、総司と
少なくとも総司は動くと思われた。
だから彼女を気に食わないと思いつつもなにもしない。
そんな愛菜への嫉妬の思いも重なり、矛先が小林さんへと向かったのだ。
今では隠すことなく小林さんを虐めている。
彼女を見てはクスクスと笑う。わざとぶつかり、謝れと因縁をつける。
掃除などの雑用を小林さんに押しつけるなど、最初は激しいものではなかった。いや、もちろんそれだけで十分に問題なのだが、とうとう持ち物を壊すなど、手を出し始めた。
そして、それを見た愛菜が、花巻たちに怒鳴り込んだのだ。
「どういうことなの!? 小林さんに謝ってよ!!」
愛菜の手には、赤いマジックで内容が分からないほど落書きされた教科書や体操着がある。
「えー、なに? なんのことか分かんない」
愛菜に怒鳴られている花巻はにやついた笑みを浮かべとぼけてみせた。
「あなたたちがやったんでしょう! 分かってるんだから」
愛菜が激しく詰め寄ると、花巻は目をつり上げる。
「えーなにそれ。証拠は? 私たちがやったって証拠はあるの?」
その現場を見ている者も実際にいるのに、その表情には余裕すらあった。
証拠を問われて愛菜はたじろぐ。
「ないけど……。あなたたちがやったのは分かってるんだから。最近小林さんを虐めてるじゃない」
「あははっ、証拠もないのに言いがかりは止めてよ。ねえ、小林さん、私たち虐めてなんていないわよねぇ」
「えっ、その……それは……」
花巻が小林さんに視線を移すと、小林さんはびくりと体を震わせ視線を
あんな
小林さんは否定も肯定もできず顔を
そんなやり取りを、クラスメイトは傍観しているだけ。
花巻に目を付けられたくないのは皆一緒なのだ。
ただ、瀬那だけは他とは違う強い
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