異能と虫と硝煙と

@kilisame081

ー硝煙の匂いー

気がついたら、私の身体は宙を舞っていた。駅のホーム、電車はけたたましい程のブレーキ音を響かせながらレールの上を滑ってくる。電車は勢いを殺していくも止まることはなく、無惨にも私は電車にハネられてしまう。勢い良く突っ込んでくる鉄の塊にハネられた私は10数メートル吹き飛ばされてしまう。私の身体からは血が溢れ大きな血だまりを作っていく。

「あ…あぁ…」

(あぁ、体…いっ…たぁ。私、死んじゃう?)

目は開いてるのに何も見えない…。周りが騒いでるの、かな?音も、意識も…何もかも……薄らいでいく…。

「これが、し、ぬ…て、ことかぁ…」

私は多分誰にも聞かれないような掠れた声で呟いた。


「……つはぁ?!」

私は目を、覚ました。目を、覚ましたのだ。その、瞳が映したのは朽ち果て崩れた鳥居と、人通りのない裏路地。私は少しよろめきながら立ち上がった…。

「あ、れ?私って…電車に乗ろうとして…ハネられて……」

そう、私は死んだハズ。死んだハズ、なのに……。私は自分の体を抱きしめて確かめる。

「体の感覚はある…?私って、死んだよね?」

その時近くで乾いた破裂音がした。

「なんでここに虫が…しかもカマキリって…」

イラついた様な、そんなことを漏らす声も聞こえてきた。私は路地裏を抜け声のする方へ向かった。

「あ~もう、なんだよこいつー!」

「あのー…」

「お?もう来た…あれ?君誰?」

「あ私は莉理之瀬奈りりのせなです」

「君は軍の…?」

「軍?」

「違うの?」

「多分違うかと」

「あー!なんで一般人なんよ!」

「それで倒せないんです?」

「コレは足止め用コレでは虫は殺せないよ」

「……何かないです?ナイフとか」

「え?一応コレな…」

「お借りしますね」

「あっちょっと?!」

私はナイフを拝借し目の前で獲物を狙うカマキリを見つめる。デカイ、虫。

(うっわでか…。虫平気で良かったなぁ…)

ナイフを逆手持ちにし、軽く距離を詰める。カマキリは私を無害と思っているのか動く気配はない。その瞬間を狙って足を切り飛ばした。

「え、何その動き…」

切られたと判断したカマキリは手の鎌を振り上げてくる。私は回避行動を取りつつ後方に飛び攻撃を回避した。

「危ない危ない。当たるとこだったぁ」

「あ、あの…」

「効かなくてもいいんで援護しててもらえます?」

そう言うと再度距離を詰め出す私に合わせて…えーっと、見知らぬ誰かさん!見知らぬ誰かさんは攻撃を合わせてくれる。カマキリが頭に当たった弾?に反応して少し注意が私から逸れたその一瞬を狙い頭をナイフで突き刺しトドメを刺した。念入りに捻っておいて。

「こんなものかな?て、なんで私あんな動けたんだろ…」

「あ、君、転校生なの?」

「え?いや、分かんない目覚めたらそこの裏路地だったし」

「そ、それはちょっとマズいかも…」

「おーい」

「げっ…」 

「カマキリが一体いるって報告だったんだが…倒したのかい?」

「あ、はい!その、えっとー…」

「その子も、生徒かい?まぁいいや、学生証出してもらえるかい?」

「学生証…?」

静苑学院せいえんがくいんの子なら持ってるでしょ?」

「あ、えっと!そう!この子転校生みたいで!」

「いや、私は違うと言うか…」

「黙ってて!」

「はい」

「それで、えっと、そう!登録前に危ないからってナイフだけ郵送されてたみたいで!」

「それならコチラから連絡しておくから君は学生証を出して、そっちの子はちゃんと学院に行くように」

「は、はい」

「分かりました」


「ふー…終わったぁ」

「あの、さっきの方は?」

「軍だよ、対虫警備軍部インゼクター

「軍…?虫…?」

「えっと…とりあえず君は学院まで僕と行って先生に報告してから、色々だね」

「分かりました」

徒歩12分と言ったところか。すぐに学院とやらに着いた。歩く町並みや風景はどこも見覚えのある者ばかり。車も、服も、何もかも見覚えがある。

「ここが学院?」

「うん、静苑学院せいえんがくいん

「せいえん…と、あなたの名前は?」

「僕は花野流乃はなのるのだよ、ちゃんとついてきてね」

「はい」


そこから5分くらい。職員室っぽい教室の前に来ると花野はなのくんは戸をノックし声をかけた。

「すみませーん。花野はなのです」

「おう、花野はなのか。連絡きてるぞ〜入れー」

「失礼します柊木ひいらぎ先生」

「おう、でそっちの女子が件の?」

「えっと莉理之瀬奈りりのせなです」

「ふむ、それじゃ君は帰っていいよ。てか花野はなの!学院が登録もしてない人間にナイフ渡すと思うか?」

「すよね…」

「え?何もないんです?」

「ん?転校生ってことなら別に構わないけど?てか家は?」

「目覚めたらココに」

「家もない…?」

「はい」

「んじゃコレに名前とか諸々のこと書いておいて。空いてる寮部屋探しとくし」

「あ、はい」

私は出された書類に色々書いていく。

(名前…莉理之瀬奈りりのせな年齢?17。い、異能力…?わ、わかんない。えっと、家、はないね)

「ん?異能はないのか?カマキリを倒せたってことはBクラス程度の異能は持ってるものと…」

「そ、それがわかんないです…」

花野はなの?お前説明したか?」

「え、別に」

「魔術『フレイアフレイム』」

先生がそう口にして指をパチンと鳴らすと花野はなのと呼ばれている生徒の足元に魔法陣?が出てきて炎が包む。

「アチッ!アツ!ちょ、先生!!」

「そうだな…莉理之りりのお前のことは記憶喪失みたいなものと思っておく。それで詳しく話すが、あまり人に話すなよ自分がこの世界について分からないと言うのを。記憶喪失と言うことにしろ」

「分かりました」

「この世界には異能と呼ばれる特質なチカラがある。それを扱える者が、主に学生が集まっているのがここ静苑学院せいえんがくいんだ。」

異能チカラ……。それはさっき先生が使ったみたいな?」

「んにゃ。アレは魔術。異能とは違って発現しなくてもあつかえる物だ。本来なら長ったらしい詠唱を挟んで行使するんだがワタシのように素質がある者は無詠唱やら魔法陣の集約とか多重展開とかやれるらしいがな」

「へ〜…」

「それと対虫警備軍部インゼクターこれは普通の軍人や家の卒業生、異能を使える大人が警備してくれる部隊だな」

対虫警備軍部インゼクター……」

「ま、卒業した奴らは基本そこに入るな」

「ふぅん、そうなんだ」

「まぁ卒業するのも面倒だがなぁ」

先生はそう笑っていた。私は先生の話を聞きながら記入必須の項目を埋め終えた。

「よし、それじゃぁちょっと来い」

「あ、えっと…」

「どうかしたか〜?」

「アレは…?」

私は燃えながら床を転がりまわる花野はなのくんを指差す。すると先生は溜め息をつきながら指を鳴らした。

「魔術『アクアクラフト』」

消火するとすぐに隣の部屋に案内された。

「ここは?」

「異能判別機がある部屋だ。コイツが異能の有無からランクまで出してくれる。あと学生証もな」

先生がそう言いながらプロジェクターの様な機械に手を置いた。

「よし、莉理之りりの前に立て」

私は先生に言われるままその機械の前に立った。

直後その機械は私に光をあて、足先から頭までゆっくりと上へとその光を上げていく。

ピーピーピーガチャン。

そんな音が鳴り響いたかと思うと機械から1枚の紙とカードのようなものが出てきた。

「結果が出たようだな。どれどれ……?!」

「どうしたんですか?先生」

先生が驚いたような顔をしていた。

「いやはや、面白いな莉理之りりのお前無能力者だぜ?」

「そうなんですか…?」

話を聞く限り、別に無能力者が珍しい訳ではなさそうなんだけど…。そんなことを思いながら先生の言葉を待った。

「そう、無能力者。それなのに、コイツはお前をSクラス判定したんだよ」

「S…クラス…?それって凄いんですか?」

「あぁ、この機械に初審査でSを貰ったのは6人。二次審査で4人、三次審査で3人だ。そいつらは人並み外れた異能だったり、異能の扱いが上手かったり、応用を磨いた奴らだ。2人を除いてな」

「2人、ですか?」

「そう、ここ静苑学院せいえんがくいん生徒のトップにして生徒会長。されど無能力者。彼と……記憶喪失な君だ」

「わ、私ってそんなに凄いんです?」

「話を聞く限り魔術が得意と言うこともなさそうだ。ならば考えられる可能性は1つ……。君が彼と同じで到達者げんかいてんと言うことさ」


こうして、私莉理之瀬奈りりのせな静苑学院せいえんがくいんへと入学することに。ここから私の新たな学院生活と、虫との過酷な戦いが始まることになるのでした。


そして、私はまだ知らない。これがまだ、ほんの序章に過ぎないことを……。

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