第5話

 その後すぐにブラインド・ブレイクの奴は録音の為にシカゴに行ったが、チャーリー・パットンは街で暴れ続けた。ジューク・ジョイントやキャバレーに現れては客を沸かせ、時に喧嘩に巻き込まれてはその腕っぷしの強さでどんな相手も黙らせた。店がお開きになるとくすねた女と酒を抱いての日々だった。日曜日には決まって教会に祈りに行った。街には幾つか教会があり、これは白人用と黒人用のもので分けられていたからだった。「大覚醒」と新聞で賑やかされた宗教運動の余波からか、教会は大盛況だった。ある日曜日、いつものように教会に行くと、牧師に声をかけられた。

「今度、結婚式があるのですが、昨今は粛々と執り行われるのは好かれません。チャーリーさん、歌っていただけませんか?」

そう言われて断るチャーリーではなかった。

「これも神様の意思ってやつだろう。いいぜ。」


 そして当日、チャーリーはいつもよりは控えめのパフォーマンスで歌った。教会ということもあって、猥褻な歌は一切歌わなかった。評判とは全く異なるチャーリーの敬虔な歌に牧師は驚きを隠せない。それでも心地よい押韻と捻り切れそうなギターの音に結婚式は大いに盛り上がった。

「チャーリーさん、まさかここまで敬虔な方だとは知りませんでした。」

「俺の生き方はまともじゃねぇ。地獄に落ちるだろう。それでもキリスト様に救われたいのさ。我ながら酷く傲慢だな。」

そう笑った彼はどんな信者よりも敬虔で、しかし熾烈にブルーであった。


 チャーリーが教会を出ると、知った顔がいた。ミスター・パラマウントだ。

「チャーリー、やっと見つけたよ。君が農場を追放されたと聞いた時はどれだけ心配したことか。」

「すまないね。俺は悪くねぇんだが、黒人のいざこざに一々関心のある農園主様も少ないからな。」

「その農園主なら私が説得した。エドワードもロバートも待っている。新しい顔ぶれも君を待ってるんだ。さあ、帰ろう。」


こうしてチャーリー・パットンはドッケリー農地へ帰ることとなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る