第3話

 今夜、チャーリー・パットンは若いソングスターたちとドッケリー農場のバレルハウスに出演することになっていた。夕になってバレルハウスの扉を開けると、若者がごった返していて、手元には密造酒ブートレッグが輝いていた。チャーリーの名声はミシシッピ中に轟いていて、若者たちは彼を見ようと、ここ、ドッケリー農場に集まっていた。

「これも禁酒法のせい、ですかね。」

「白人連中も遂にいかれちまったらしい。」

そんな会話をしながら、チャーリー・パットンはエドワード・ハウスらと煙草を吸っていた。

「どうにもやくざな連中だな。」

バレルハウスでは、若者の渦が常連客を喰らいつくす勢いで、酒やらピーナッツが飛び交い、迷惑がる女の声とか、困った年寄りのうめきが聞こえる。柱のところじゃナイフを自慢げに取り出す輩もいるし、全く落ち着きやしないといった様子だ。

「チャーリー、そろそろだ!」

店主が叫ぶ様に彼を呼ぶ。彼はエドワード・ハウスの肩を叩くと、行ってこいと合図を出す。

 六弦、五弦、四弦、三弦、二弦、一弦、そして戻って六弦とチューニングをしたエドワードは「ウェール!」と叫んで曲を始めた。ナショナルのレゾネーターギターは聴衆を黙らせるには十分な騒音を掻き立てた。周りの奴らは踊り出す。エドワードは決してバレるハウスを吹き飛ばす様な歓声を得ることはなかったが、客はダンスに火がついて、30分ちょっと踊り通した。途中、ハニーボーイの奴がふらっと現れてハープを吹き吸いしたものだから、バレルハウスは「ブロウ!ブロウ!」と彼を煽る声で溢れた。

 チャーリーは煙草に火をつける。

「ロバート、しくじったら俺が何とかするから、やってみるかい?」

そう言って、最年少のソングスターをステージに放った。ロバートがステージに上がると、不意にギターを静かに弾き始めた。使う弦はもっぱら六弦と五限のみのシンプルなものだった。客はその単調さに憤慨し、瓶やら何やらを投げだす。

「ふざけるな!ブルースをやれ!」

「チャーリーみたいな荒々しいのをだ!」

チャーリーは呆れる。あの単調さの中にこそ、彼のブルースは燻りながらもあるというのに!ロバートは歌い出せずにギターを何とか弾き続ける。チャーリーはギター一本でそこに乗り込んで、「アイム・チャーリー・パットン!」と叫んで、ロバートのギターに合わせてギターを掻き鳴らす。観客は絶好調!しかしチャーリーは「Dust Your Broom!(失せろ!)」と連呼する。そうして何とか一曲を終える。ロバートをステージから下ろすと、怒りを込めて、「Going Home(帰れ)」と歌い出した。観客は大盛り上がり、煙草の煙も酒も飛び交う快楽の地獄が生まれた。チャーリー・パットンはブルースを体現していた。ギターを掻き鳴らしながら暴れ、ビール瓶やグラスをスライドバー代わりにし、遂にはギターをぶん投げる。

 どっかの馬鹿が酒に火を付ける。バレルハウスは瞬く間に火だるまになり、人々は逃げ仰る。チャーリーもエドワードもロバートと命からがら逃げた。


 翌朝、反社会的行動のため、チャーリー・パットンはドッケリー農場を追放された。

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