第2話

 夜、家の外壁にもたれかかって煙草に火をつける。チャーリー・パットンはミスター・パラマウントという白人に勧められて、彼のブルースを録音した。レコード盤に宿った彼の声はたちまち人々を魅了する。以前はヘンリー・スローンの独壇場であったドッケリー農場の安酒場も彼を歓迎し、彼を慕うソングスターもやって来た。

 ソングスター連中と一緒に、酒を飲んでギターを弾けば、暮らしていられる。チャーリー・パットンは今や、ドッケリー農場の音楽の先生のようになっていた。

「エドワード、スライドはもっとブルースを込めろ!」

するとソングスター仲間のエドワードは勢いのままにボトルネックを斜めに滑り込ませる。

「そうだ、そうだ!俺たちは白人連中とは違うんだ。綺麗な音に逃げてないで、己のブルースを荒々しくさせておけ。」

「はい。そう言えばチャーリー、この前の洪水のこと、聞きました?」

そう言い出した彼はエドワード、エドワード・ハウスだ。

「ああ、またたくさん死んだらしいな。」

「俺の友達の逝っちまいました。また白人連中が高台を占領したみたいで。」

「あいつらにとっちゃ、俺たち黒人より犬畜生の方が大事なんだろうな。」

「この前、堤防居住地に歌いに行った時も酷い有様でした。夫を亡くした女がうめき声をあげて叫んでましたよ。」

「いいか、エドワード。ブルースってのは同情を誘うだけのもんじゃない。悲しみと怒りで聴き手を圧倒しなきゃならないんだ。そう、俺たち黒人はブルースに恵まれてるんだ。俺たちソングスターはそれを歌い上げなきゃならない。」

そういってチャーリーは安酒を飲み干すと、どこもかしこも満水(High Water Everywhere)だ、と歌い出した。


 ある夜のことだった。怪しげな女がチャーリーの家を訪れた。

「貴方、私に魂をくださらない?そうしたら貴方の名前を永遠のものにしてあげる。未来永劫忘れられない偉人にしてあげる。そこらの白人連中なんかとは比べ物にならない富を与えてあげるわ。」

しかし彼は答える。

「お前は何も分かってない。ブルースは未来永劫の力を宿している。俺の指と喉には、心には、とびっきりのブルースがある。それはどんな人間にもあるもので、それぞれの善がある。俺たちソングスターは空飛ぶ未来人だって吹き飛ばせてみせるさ。」

「ふん!お前は何も分かってないのよ!世界はこれから何もかもが貪欲に満ちた汚れた場所になるのよ。そんな世界で人々は盲目になる、ブルースなんて、それがなんであるとしても、忘れられるでしょう!それでも貴方はいいというの?」

「人に心がある限り、ブルースは死なない。どんな音に化けたとしても、ブルースは人の内に燃え続ける。」

「ならば貴方にはそのブルースとやらを消す雨を贈りましょう!私は悪魔、反キリスト者、運命を告げる者よ。」

「何とでも言え、ペテン女。」


 扉を閉めた女はどこかへ消え、雨が降り始めた。

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