第2話

 翌日、私は大学をサボって荷物をまとめた。幾らかの服と愛読書であるジャック・ケルアックの「路上」をマッチ箱の様に小さなトランクに詰め込んで、空港に向かった。コンビニのおにぎりを貪って、飛行機を待つ。最近のコンビニのおにぎりは海苔にも味がついているのか、とかどうでもいいことを思案しながら、アメリカへの夢を募らせていた。目的地はジャクソンヴィル。それから数々のブルースの名手を生んだ東海岸を満喫したいとか、伝説のドッケリー農場を見てみたいとか。ミシシッピ川の音、ブルースの中のブルースを聴いてみたいとか、本物のジュークジョイントに行ってみたいとか。ブラインド・レモン・ジェファソンたちの故郷テキサスにも夢を広げたし、シカゴにも行ってみたいとか考えた。フライトは約15時間。私はすぐに眠りについた。

 何か異音の様なもので目を覚ました私は窓から外を見る。すると煙がごうごうと立ち上り、飛行機は悲鳴をあげていた。


お客様にお知らせ、これより緊急着陸

シートベルト、気圧、乗務員の指示、従う

ツーッ、ザーッザー、只今、悲鳴、祈り

怒号、ザーッ、非常灯、揺れ、揺れ、煙

炎が、金なら、大学、お知らせしま、家族

乗務員、酸素マスク、友達、ご迷惑を、緊急

悲しい、悲、しい、悲し、い、か、な、し、


爆音と共に世界は真っ暗になった。




「いろんな夢を見ておいで。」

そんな秋田の母親の言葉をふと思い出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る