第2話
智を除く泉谷家は、この週、単身赴任をしている兄に会いにいくことになった。兄は泉谷太輔といった。
泉谷康二が、仕事を2日続けて休む価値があるくらいの、泉谷家一大イベントだし、誰より何より楽しみにしていたのは、息子の智だったために、無念の一言に尽きた。
そんな憂いが吹き飛ぶような、綺麗な朝の、——紅くて蒼い——空に見守られながら、智を除く泉谷家は続々と車に乗り込んだ。
そして、最寄りのインターチェンジまで、時速30キロくらいで進んだ。
時々赤信号に捕まると、青空を見ながら、一家の話題は失踪した(と思われている)泉谷智の話題になった。
泉谷康二がいった。「お〜い智〜、いるんなら返事しろぉ」
泉谷みゆきがそれに応えるように、「家出してるらしいから、窓開けたって無駄よ」
姉だけが、家出だと思っているらしい。まぁ、「家」を「出」ているから、本意的にはあっているのかも知れないが。
やっと、泉谷智がどこに行ったかわかった人が泉谷家の中に現れた。
朝9時45分。89キロ進み、残りはまだ180キロもある。
「ちょっと、サービスエリアかパーキングエリアで休憩しましょう」
言ったのは、泉谷みゆきだった。みんながみんな賛成したけれど、泉谷Cと泉谷Bの賛成は、どこかポジティブに欠けている声だった。
泉谷ひろながつぶやいた。
「……なんか違くない? あの子……智も! 楽しみにしてたはずよ」
泉谷康二が挙手した。ところどころ吃りながら、いった。「同意見。それにも賛成。しかも、一番楽しみにしてたやつは……」
康二は、娘を指差し訊いた。
「おまえか」
妻を指差し同じように訊いた。
「ひろなか」
運転席の康二は、さっきから後ろの車がずっと尾行しているように思えてしかたなかった。曲がり角の多い高速道路だから、案外目的地はうちと近いのかもしれない、と思った。
サービスエリアに着くと、二手に分かれた。
泉谷康二とみゆきは、「お土産を買う」係。
ひろなは、「コンビニに行く」係がいいと言ったので、この役目に決定した。
しばらくして、全員が待ち合わせ場所に集合した。
泉谷一家は不吉な顔をしていた。
泉谷みゆきは、確認のため訊いた。
「みんなおんなじこと考えてるよね?」
みんな、頷いた。みゆきは、うなだれた。「そうだよね……」
この時にはみんな、智の運命を悟っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます