牢獄脱出 ——RoGoku——

沼津平成

第1話

「ん……おはよう」

 泉谷智は、目を覚ました。腕を特定の物体に向かい伸ばしたが、「特定の物体」には届かなかった。横着しないほうがいいんだな、と小さなことで学んだ。

 めんどくさそうに「どうせ起き上がるんだからさ、」と、起き上がり、目覚まし時計に手を届かせようと粘った。「らくさせてよー……」起きたというボタンを押して、スムーズを切った。

 いつの間にか窓からぼやけた朝の陽が差し込んでいた。


 そして、声を張り上げた。

 泉谷智の声で、父親 泉谷康二も起きた。

「お母さんはぁ〜〜〜〜、外出中だぞぉ〜」と言ったのだ。

 ちょうどその時、泉谷みゆきが目を擦り上げた。毎週日曜日の朝は、いつもこんなふうに始まる。


「ただいま」

 怒り狂ったのか、ぶっきらぼうな声で、母親・泉谷ひろなが返事をした。みんなは、生唾を飲んだ。昨日、秘密のあれをしたせいか。

「……みんな、どうして固まっているの? いつものことなら許せるよ、『いつも』だしね」

『いつも』の響きが、やけに強かった。泉谷智は思い出したように言った。

「やべ、今日ランニングデイや、よ?」智は、そう言って、外から出て、曲がり角を曲がった。瞬間、スプレーを何者かにかけられた。その直後、泉谷Aは、道端に倒れ、眠ってしまった!


 泉谷智が次目を覚ましたのは、太陽が窓を突き刺す朝だった。

 泉谷智は、いった。「なんで……? どこで寝てたんだろ——。思い出せ…」

 思い出そうとすればするほど、はるか昔の記憶ばかりが出てくる。もどかしく、虚しくさえもなった。

 看守が出てきて、言った。

「お前の二つ目のお家は、ここだ」    

 看守は「そうそう、俺は、廣田ひろた」といった。

 はぁ? という顔で、廣田看守をずっと見ていたが、廣田看守の目つきが変わることはなかった。


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