身に余る誕生日プレゼントたち

ちびまるフォイ

幸せの無限ループ

「お誕生日おめでとう! はいこれ!」


「プレゼント? 嬉しいなぁ」


「開けてみて」


「え~~なんだろぉ。欲しかったスニーカーかな」


プレゼントを開けるとただ1枚のシールが出てきた。

シールもらって喜ぶのは小学1年生だけだ。


「……わ、わぁ~~……あ、ありがとう……?」


「それね、お誕生日シール。あなたが誕生日だと証明するものよ」


「そうなんだぁ……」


すると、カフェの近くの席に座っていた人が立ち上がる。


「え!? 君誕生日なのかい!?」


「あ、はぁ……どなたで?」


「僕のことなんてどうでもいい! 誕生日おめでとう!」


「いや、そんな! こんなもの受け取れませんよ!」


「ダメだよ! 誕生日なんだから受け取って!」


「え、えええ!?」


知らん人からなぜか金の延べ棒をもらってしまった。


「これ……仕込み? ドッキリ?」


「ん? なにが?」


「フラッシュモブみたいに、実は通行人が仕掛け人で……。

 そういうやつじゃないの?」


「みんなあなたの誕生日をお祝いしたいだけよ」


「初対面の人から延べ棒もらうなんて……ありえないよ」


「ほしくないの? 嬉しくないの?」


「そりゃ嬉しいけど……」


「それじゃいいじゃない♪」


腑に落ちたわけではないものの、

金の延べ棒の時価総額を調べたらそんな疑問も吹っ飛んだ。

お金は正義。あらゆる不満をも吸い取ってくれる。


「それじゃ出ようか」

「ええ」


外に出た瞬間だった。

カフェの出口には大量の人だかり。


まるで大人気のアーティストの出待ち列のよう。


「「 ハッピー! バースデー!! 」」


クラッカーが鳴らされ大量の花束が渡される。

それに飽き足らず次々にプレゼントを渡される。


花束に食器。

タオルにお酒。

洋服にスニーカー。

家具に家電。

カタログギフト。


などなどなどなど。


初対面で挨拶もしたことない人から次々にプレゼントが贈られる。


「ちょっ……困ります! こんなのもらえませんよ!!」


「いいから受け取って!」

「お誕生日おめでとう!」

「さあプレゼントを!」


次々に押し付けられるプレゼントにガマンの限界。



「いい加減にしてください!!!」



大声を出すと周囲のお祝い人間たちは静まった。


「さっきからなんなんですか。

 知らない人からこんなにもらって気味悪いですよ!」


「……」


「知ってる人からのプレゼントなら嬉しいけど

 知らん人からのプレゼントはいりません!」


ハッキリと断言した。

彼らがフラッシュモブのエキストラなのかもしれないが、

こっちだって知らない人からのプレゼントは受け取れない。


すると周囲の人々の顔にみるみるシワが寄っていく。


「……もらえよ」


「え?」


「もらえよ!!! 誕生日なんだろ!!!」


さっきまでの張り付いた作り物の笑顔が一転。

これから一揆でも起こそうかという臨戦態勢へと切り替わった。


「もらえ!!」「もらえ!!」「もらえ!!」


「なんでそんなに俺の誕生日プレゼント贈りたいんですか!?」


「もらえ!! もらわなきゃ殺す!!!」


「ひええええ」


もはや交渉の余地もない。

ここで断れば包装されているちょうちょリボンで

頸動脈から絞め上げられてしまう。


「わかりましたよ! もらえばいいんでしょう!?」


もう諦めるしかなかった。

次々にプレゼントが渡される。


「誕生日おめでとう!!」


商品券。


「お誕生日おめでとう!」


自分のスマホとサイズ合わないスマホケース。


「ハッピーバースデーー!!」


ぬいぐるみ。


「さあ受け取って!」


無人島。



道を歩けば自分を見つけた人から次々にプレゼント。


「もういい……どうせ今日だけの辛抱だ……」


明日になれば自分はもう誕生日じゃなくなる。


すでに手に余るこの誕生日プレゼントも、

これ以上もらうことはなくなるだろう。


自宅まで徒歩5分の道のりが、

プレゼントを渡され続けて徒歩10時間となった。


家に到着したときにはへとへと。

ドアを開けると誕生日プレゼントの置き配がドアを塞いでいた。


「こんなんどうすりゃいいんだよぉ!!」


強引に窓から家にすべりこむ。

ベッドに倒れるともう疲れで動けなくなった。


「誕生日って……しんどい……」


そのまま眠りについたことすら気づかなかった。


次に目を覚ましてスマホを見ると、

すでに日付が変わっていた。


「や……やったーー! ついに誕生日が終わった!!

 これでもうプレゼントをもらわないぞ!!」


自分が許容できる以上のプレゼントとは

すでに嫌がらせになることを思い知った。


あと残るのは昨日渡されて身に余る誕プレだけ。


「これどうしよう……」


売れるものは売ることができるが、

そうそう簡単に売りに出せないプレゼントもある。


いったいどうすればいいのか。


そのときだった。

スマホに1件の通知が入る。




メッセージ:この近くに誕生日の人がいます!



通知を押してアプリを開く。

地図アプリには、誕生日の人たちの場所がGPSで示されていた。


暗い笑顔が自然と顔に浮き出てしまう。


迷うことはない。

すぐに現地に向かう。


いうべきセリフはひとつだった。



「誕生日おめでとう!!

 はい! 誕生日プレゼントの無人島!」



ああ、これで誕生日プレゼントを処理できる。

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