19 儀式
山頂に微かな光が差し込み、夜明けが訪れようとしていた。
零はリヴォールの残滓が漂う場所に静かに立ち、周囲を見渡した。妖魔王との戦いで削られた体力を感じながらも、彼の目には次の使命への強い意志が宿っていた。
「ハル、準備を始めるぞ。」
零の声に、近くで待機していたハルが頷いた。
「分かった。でも、封印の儀式ってどんなことをするの?」
「これだ。」
零はリュックから採掘した宝石のひとつ、純白のオパールを取り出した。その表面は微かに光を放ち、内部で魔力が脈動しているようだった。
「このオパールは特殊な魔力を封じ込める力を持つ。これにリヴォールの残った魔力を全て封じ込める。」
「そんなことできるの?」
「やるしかない。それが俺たちの戦いを終わらせる最後の方法だ。」
零はオパールを地面に置き、その周囲に特定の魔法陣を刻み始めた。火魔法の力を用いて、石の表面に焼き付けるように複雑な紋様を描いていく。その間、ハルは周囲を見張り、念話で警戒を伝える。
「零、まだ魔物の気配が残ってるよ。気をつけて。」
「ああ、分かっている。儀式中に邪魔が入らないように頼む。」
魔法陣が完成し、零はブレスレットに手を添えて魔力を集中させた。ルビーの輝きが再び強まり、オパールに向けて炎のような光が流れ込む。オパールはその光を吸収し、次第に明るく輝き始めた。
「これで、リヴォールの魔力をここに閉じ込める。」
その時、山のふもとから新たな魔物が現れた。リヴォールの魔力の一部が生み出した最後の手先であり、儀式を妨害するために襲いかかってきた。
「ハル、時間を稼いでくれ!」
零が叫ぶと、ハルは念話で答えた。
「分かったよ!絶対に邪魔はさせない!」
ハルは前に出て、素早い動きで魔物の攻撃をかわしながら零を守った。零も火魔法で援護を送りつつ、儀式を続行した。
「ハル、持ちこたえろ!」
「任せて!まだいけるよ!」
儀式が最終段階に入ると、オパールの輝きが極限に達し、まるで夜空に新たな星が生まれるかのようだった。零は最後の魔力を込め、オパールを地面に叩きつけた。その瞬間、眩い光が広がり、周囲の全てを包み込んだ。
「リヴォールの力は…これで終わりだ。」
零の声が響く中、光が収まり、オパールは静かに地面に横たわっていた。その内部には黒い影が封じ込められ、完全に動きを止めていた。
零は深く息をつきながら、オパールを手に取った。その表面は穏やかに光を放ち、リヴォールの力を完全に封じ込めたことを示していた。そばでハルが疲れた様子で座り込み、念話で零に声をかける。
「やったね、零…。全部終わったんだね。」
「ああ、これで町に平和が戻る。」
零はオパールを丁寧に布で包み、リュックにしまった。そして、ゆっくりと山を降りながら、ふもとで待つ町の人々の顔を思い浮かべた。
山を降りた零とハルを迎えたのは、町の住民たちの歓声だった。彼らは零の無事を喜び、彼の尽力に感謝の言葉を送った。
「零さん、本当にありがとうございました!」
零は少し照れくさそうに微笑みながら答えた。
「俺はただ、自分の役目を果たしただけです。」
ハルは尾を揺らしながら零を見上げ、静かに言った。
「零、かっこよかったよ。」
「ありがとう、ハル。お前がいてくれたからできたんだ。」
封印の儀式を終えた零は、再び町の平和を守り続けることを決意する。その目には新たな日常を作り上げる希望が宿っていた。
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