7 掘り当てた第二の温泉
午前の柔らかな陽射しが、谷間の採掘場を明るく照らしていた。
零は槌を振るいながら、岩を削り進めていた。
ハルはそのそばで日向ぼっこをしているように見えたが、実は念話で零と軽口を交わしながら周囲の気配に注意を払っていた。
「今日は何が出るかな、ハル?」
「んー、なんとなくこっちの方が良い感じするよ。」
彼女は尾を揺らしながら少し離れた場所を示した。その気まぐれな仕草に零は微笑みつつも、念話の信頼性を試すつもりでそこを掘ることにした。
槌を振り下ろすたびに、岩の間から冷たい風が漏れ出してくる。
零はその異変に気づき、さらに掘り進めた。
すると、しばらくして地面から湯気が立ち上るのが見えた。
「おっと、これは…温泉か?」
零が岩をさらに取り除くと、そこには湧き出る温水の小さな泉が現れた。
湯気に混じってほのかな硫黄の香りが漂う。
「やったね、零!また温泉掘り当てちゃったじゃん。」
ハルが尻尾をピンと立て、嬉しそうに零を見上げる。
「すごいな。採掘してて温泉が見つかるなんて、これで二度目だぞ。」
零は笑いながら言い、湯の温度を手で確かめた。
「ちょうどいい湯加減だ。しかも、前に見つけた温泉とは違う成分みたいだな。」
その夜、零は新たな温泉を試してみることにした。
月明かりの下、温泉の湯は透明で、揺れる水面が幻想的な光を反射していた。
零は湯に浸かりながら、筋肉の疲れがじわじわとほぐれていくのを感じた。
「いい湯だな…。こんな贅沢な時間が手に入るなんて、採掘者も悪くない。」
そのそばでハルも湯の縁に座り、気持ちよさそうに毛づくろいをしていた。
「零、これ美容にも良さそうだよ」
「確かに。この泉、町の人にも教えてあげたら喜びそうだな。」
ハルは零の言葉に頷きながら、ふと小さく笑ったような表情を見せた。
「零ってさ、町のみんなが喜ぶ顔を見るのが好きなんだね。」
「まあな。それで俺も得するなら一石二鳥だろ?」
零の軽口に、ハルは「素直じゃないなぁ」と念話で返した。
翌日、零は新たな温泉の存在を町の人々に知らせた。
美容に良いという噂が広まり、特に女性たちに大人気となった。
温泉を訪れた人々はその効果を実感し、零に感謝の言葉を伝えた。
「本当にありがとう!お肌がすべすべになりました。」
とある女性が輝く笑顔でそう言うと、零は少し照れくさそうに頭を掻いた。
「掘り当てたのは偶然だよ。でも、楽しんでもらえて良かった。」
ハルはその様子を見ながら、念話でいたずらっぽく声をかける。
「ねえ零、これで町の人たちからの信頼、またグッと上がったね。」
「まあな。ただ、これ以上頼られすぎると疲れるぞ。」
「でも嬉しそうじゃん。」
零は何も言わず、ただ微かに笑みを浮かべた
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