6 敵の出現
町外れから、不気味な咆哮が響き渡った。
その音は空気を震わせ、零は採掘場で振るっていた槌を思わず止めた。
気配察知スキルが反応し、強力な魔物の存在を知らせる。
零は険しい表情でその方向を見つめ、静かに立ち上がった。
「町の近くでこれか…嫌な気配だな。」
彼が装備を整え始めると、そばで寝転がっていたハルがふいに顔を上げた。
その琥珀色の瞳が輝き、零に向けられる。
そして、彼の頭の中に突然声が響いた。
「零、聞こえる?なんか、話せるようになったみたいだよ。」
零は驚きのあまり動きを止め、ハルを見下ろした。
彼女はいつもの涼しげな態度を崩さず、零を見上げている。
「ハル、今の…本当に話してるのか?」
「そうみたい。びっくりした?私もなんでか分かんないけど、やれるもんだね。」
零は数瞬考え込み、やがて口元に小さな笑みを浮かべた。
「そうか…なら、頼りにさせてもらうぞ。あいつら、厄介そうだからな。」
「もちろん!私がついてるから安心してよ。」
かつて零は鑑定スキルを手に入れ、ハルを鑑定した。
ハルには強力な防御の魔法がかけられている事を知った、それはこの世界の神の一柱がハルにかけたものであった。
町外れの荒野で、魔物の姿が露わになった。
それは狼のような四足の獣だったが、その全身を覆う鱗が黒い霧をまとっている。
その霧は周囲の草木を枯らし、足元に広がる泥沼をさらに黒く染めていた。
牙をむき出しにした獣が、空気を引き裂くような咆哮を上げる。
「見た目からして毒持ちだな。下手に近づけない。」
零は慎重に間合いを測りながら、ハルに呼びかけた。
「ハル、何か分かるか?」
「うん、霧が毒なのは確実だよ。でも、獣自体の動きは鈍そう。狙いやすい隙はあると思う。」
零はその言葉に頷き、足場の悪さを利用する作戦を立てた。近くの岩場が視界に入り、ハルがすぐにその場所を指摘する。
「ねえ、あっちの岩場に誘導したら?あいつ、足元が不安定なのに弱いと思うよ。」
「助かる。まずはあそこに追い込む。」
零は霧を避けながら素早く動き、魔物を挑発するように岩場へと誘導した。
牙をむいて迫ってくる獣の攻撃を紙一重でかわしながら、零は一瞬の隙を見つけた。
「今だ!」
彼の剣が青白い閃光を放ち、魔物の喉元を正確に貫いた。
黒い霧が消え、獣は断末魔の咆哮を上げながら崩れ落ちる。
その光景を見て、ハルが軽く鳴き声を上げた。
「やったね、零!あっという間じゃん。」
「お前がいてくれたおかげだよ。次も頼むな。」
帰り道、二人は町へと歩いていた。
ハルは零の肩に飛び乗り、ふわふわの毛を風に揺らしている。
念話での会話が自然と続き、そのやり取りにはどこか温かみがあった。
「ねえ零、私たち良いコンビじゃない?」
「まあな。でも、頼りすぎるとハルが調子に乗りそうで怖い。」
「ひどーい!でも、そういうとこ嫌いじゃないよ。」
零は苦笑しつつ、町の灯りを見つめた。
彼らの新しい絆が、これからの困難を乗り越える力になると感じながら。
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