5 日常
霧が立ち込める静かな朝、採掘場には零の槌音が響いていた。
谷間の岩壁は、日々零が丁寧に削り進めた跡が刻まれ、今では小さな採掘場として機能している。
霧が晴れると同時に陽光が差し込み、隠れた鉱脈の小さな光が岩の隙間で瞬いていた。
零のそばには、ふさふさとしたルディ色の毛並みを持つソマリのハルが、優雅に座って作業を見守っている。
彼女は鋭い目つきで零の手元を観察していたが、その尾はゆったりと揺れており余裕たっぷりの姿が目立つ。
「ハル、今日も監督ご苦労様。」
零が笑いながら声をかけると、ハルは一声「ミャ」と応えた。その声には、まるで「当然でしょ」とでも言いたげな響きがあった。
零は槌を振り下ろし、岩片を丁寧に取り除いていく。やがて、小さな赤い結晶が顔をのぞかせた。
「これは…ガーネットか」
零はその石を手に取り、鑑定スキルを発動させた。
スキルの情報が結晶を細かく分析し、その結果に零は満足げな微笑みを浮かべた。
「なかなかの質だ。今日も収穫があって良かった。」
午後、零は採掘場から戻り、加工場に向かった。
現代の地球からコピーしたこの加工場には、精密な機械が並んでいる。
零は採掘したガーネットを慎重に機械にセットし、設計図を確認した。
切り出しから研磨までの工程は無駄がなく、宝石は徐々に完成に近づいていく。
ハルはその間、加工場の机の上に座り、気まぐれに前足を舐めながら零の作業を見ていた。
だが、やがて彼女は立ち上がり、部屋の隅に置いてある未鑑定の原石の山に歩み寄った。
そして、その中のひとつを前足で軽く押した。
「どうした、ハル?」
零が気づいてその石を拾い上げると、ハルは誇らしげに尾を揺らし、まるで「これを見なさい」とでも言うような態度を見せた。零はそれを鑑定スキルで調べ、目を丸くした。
「エメラルド…しかもかなりの高品質だ。」
零は驚きつつも感心してハルを撫でた。
彼女はその手に気持ちよさそうに目を細めながら、「やっぱり私がいないと駄目ね」とでも言いたげな仕草を見せる。
その様子に零は思わず吹き出した。
夕方、零は完成したガーネットのアクセサリーを市場に持ち込んだ。
市場では、零の加工した宝石やアクセサリーが評判を呼び、多くの人々が店頭に集まっていた。
彼の作品は、その品質の高さとデザインの美しさから、町の人々に信頼されつつあった。
「零さん、また素敵なものを作ってくれたんですね。」
常連客の女性が微笑みながらアクセサリーを手に取る。その笑顔に零は軽く頭を下げた。
「皆さんの生活の彩りになれば幸いです。」
ハルは零の足元で小さく鳴き、まるで「私が見つけた原石も見せたら?」と言いたげだった。
その仕草に零は微笑み、そっとハルを抱き上げる。
「ハルのおかげで素晴らしい素材が見つかってるんだ。感謝してるよ。」
ハルは軽く鳴き声を上げ、満足そうに目を閉じた。
零にとって、彼女との共同作業が何よりも充実した時間であることは間違いなかった。
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