4 温泉を掘り当てる

零の新しい日常には、思いがけない発見が待っていた。

採掘者としての生活にも少しずつ慣れ始めたある日、彼はハルと共に村外れの採掘現場に向かっていた。

手にするのは、村で購入した採掘用のツルハシとハンマー。

「今日はいいものが見つかるといいんだけどな」

零が軽い調子でハルに話しかけると、ハルは小さく鳴き声を返した。

「ハルの嗅覚、役に立つからな。頼りにしてるよ」


その日の作業は、いつもと同じように静かだった。

零は気配察知のスキルを応用し、地中の微かな変化を感じ取ろうとしていた。

しかし、長時間掘り進めた末、見つかったのは普通の石ばかりだった。

ため息をつき、ツルハシを置こうとしたその時だった。

「ん?」


地面から微かに立ち上る湯気。

さらに掘り進めていくと、湿った地層が現れ、その奥から湯が滲み出してくるのを確認した。

零は驚きの表情を浮かべながら手を止めた。

「まさか、温泉…?」


掘り進むほどに湯は勢いを増し、やがて小さな温泉の泉が姿を現した。

零は湯をすくって手のひらで感じてみる。

ほんのり温かく、疲れを溶かすような感触が伝わる。


「これはいいぞ」

零は笑みを浮かべた。

ハルも興味津々といった様子で湯の表面を軽く触れている。


村に戻った零は、すぐに温泉のことを伝えた。

村人たちは驚きと喜びで湧き立ち、さっそく簡単な整備が進められた。

その夜、零は掘り当てたばかりの温泉に浸かることにした。

月明かりに照らされる湯気の中、心地よい温かさが全身を包み込む。

「こんな贅沢な癒し、勇者だった頃には想像もできなかったな」

零は湯に浸かりながらぽつりと呟いた。


ハルも隣で満足そうに湯気を浴びている。

この静かなひと時は、かつての激しい日々とは全く異なる新しい幸福だった。

こうして、温泉を掘り当てた零は、さらに採掘と癒しの喜びを見つけていくのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る