第2話 品のないネタはほどほどに

 (R指定のゲームで家族会議になるか?)


 佐々木翔太は、河川敷を歩いている。夕焼けが眩しい。背景には、電車が通り過ぎている。


 (開始早々のモザイク。運営に怒られる前に自主削除したはずなのに……)


 前から運動部らしき集団が走ってくる。


 (パロディじゃごまかせないとでもいうのか!)


 子供たちも土手を滑り落ちていく。楽しそうだ。


 (帰れない)


 奴から電話がくる。即、通話を切った。


「あの……電話している男」


 その後ろ姿を見て、不適な笑顔で水鉄砲を持っている少女がいた。


「フフ、いいこと思いついた! ……みんな着いてきて」


「うん!」と子供たちが意気投合して、少女たちは佐々木に後ろから近づいてくる。


「ファミレスに咲いてねぇよ。じゃ……ん? つめた! なんだお前!?」


「おい? 佐々木どうした!?」


 高崎敦が電話ごしに心配しているがそれどころではない。


「うぇ、顔、や、やめろ! ……アッ。どこ当ててんだ!」


「当ててんのよ!」


 俺は、水を全身かけられ、振り返る。


「もらったぁぁぁぁぁぁ!」


 身に覚えのある少女と近所の悪ガキがとんでもない顔で攻めかかってくる。


「おいおい、待て! 話せばわかる!」


「大丈夫か! おい!」と電話ごしに敦の焦った声がする。


 俺は子供たちに水を乱射される。さらに、前から自転車が来る。バランスを崩し、土手から勢いよく滑り落ちる。


「ウ……ウワ……ウワァァァァァァァァァァァァァ!」


「おい! 佐々木! 返事しろ!」


 敦との電話が切れてしまった。


「勝利だァァァァァァァ!」


 少女と悪ガキどもは喜びを分かちあっている。少年漫画のようだ。


「じゃねぇだろおおおオオオオオオ!」


 俺は、服を泥まみれにして怒鳴り散らした。


「なに晒してくれるんじゃいワレェェェェ!!」


「ズボン下がってパンツ丸出しだよ?」


 俺はすかさずズボンを上げる。おもらししたような濡れ方をしている。


「……てめぇらぁ! もう許さねえ!」」


「まだ戦い終わってないわ! いくよ! みんな! 私につづけぇえぇぇ!」


「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」


「どこに隠れたぁ!? 人増えすぎィィィィィィィィィィ!」


【天の声】

※アップテンポな戦闘挿入歌が流れます。MADです。脳内再生して下さい。


 夕焼けが河川敷をオレンジ色に染める中、立川真央は水鉄砲を手に持ち、子供たちの集団と共に陣形を整えていた。背後には川のせせらぎが静かに流れ、風が草を揺らしている。まるで戦場のような緊張感が漂う。

そして、悪ガキどもが高らかに言葉にする。


「グへへ! かわいい坊やだぜぇ!」

              「チェリーボーイが何ができる?」

「ヒャッハー!ママンのミルクが恋しいか!?」

             「キーキーうるせぇな!発情期ですかぁ!」


「お母さぁぁん! 小学生のセリフじゃないよ! お小遣い没収してあげて!」


 なんて、世紀末なチルドレンだ。使徒も倒せそうだ。

 ネットでアニメを見れる時代だからな。ませガキどもはすくすく大人になるのだ。モラルってものがない。コメント欄に害されているな。けしからん。

……え?お前が言うなって?ハハハ。冗談キツイゼ。そうこう考えていると真央は子供たちに向かって叫んだ。


「かこめぇぇぇえぇぇぇぇぇぇ!」


「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」


 悪ガキどもは声を上げて応じ、それぞれの水鉄砲を構えた。彼らの顔には決意がみなぎっている。

 翔太は深呼吸をして、目は鋭くする。その顔は覚悟を決めた顔だ。


「すぅうぅうぅう……かかってこいやぁぁぁぁ!」


 孤軍奮闘する佐々木翔太は、少し離れた場所で落ちていた水鉄砲を拾う。

冷静に相手の動きを見極めている。背後には川のせせらぎが静かに流れ、風が草を揺らしている。電車が鉄橋を通り過ぎ、ガタンゴトンという音が響いていた。


(ここが俺の終着駅か……)


 さて、紹介しよう。

目の前にいる少女は、立川真央。金髪ショートが似合っている。好奇心旺盛で元気いっぱいのいたずらっ子だ。保育園からの付き合いだ。また幼馴染かよって?飽きただって?安心してほしい。続々とキャラは増えていく。

話は戻って、あいつの見てくれに騙されるな。

あいつは可愛いものじゃない。いたずらには限度がない。ハラスメントですよ。

ガキの頃、コイツはお山の大将で何度もひどい目にあわされた。あ、今もか。

俺は、この女を……だと思っている。


 その瞬間、勢いよく駆け出して水をかけてきた。


「ちょ、待て! 登場人物の紹介している時には、攻撃してこないというお約束があるだろ!」


「知らん!」


 さらに、悪ガキどもがそれに続いた。水鉄砲から放たれる水が夕日にキラキラと輝き、まるで光の矢のようだ。悪ガキどもはキャッキャと笑いながらも、真央と一緒に翔太に向かって突進する。


(くそ! ……ん? 真央は白T。布地が薄いな。ふむ)


 脳内CPUがフル回転する。コンマ1秒。


「狙うならあいつだ!」


 翔太は瞬時に分析し、巧みに水を避けながら反撃を始める。なんて勇ましい姿だろう。英雄のようだ。色を好むっていうだろ?


「やるな、真央!」


「アンタこそ!」


 翔太は素早く動き、真央と子供たちの攻撃を次々とかわしていく。その動きはまるでダンスのように滑らかだ。


「右から回り込め!」


 真央は子供たちに指示を飛ばし、包囲作戦を展開する。水鉄砲を手でたたきながら、ニチャーと笑っている。


「ここまでだぜ? 兄ちゃん。」

             「おとなしく見ぐるみおいていけ!」

「そしたら、命だけは勘弁してやる。」

            「金目のものは全て頂くけどな!ゲハハハハハハハハ!」


「お前たちどこでそんなセリフ覚えた!?」


「今よ!」


 悪ガキどもはその指示に従い、翔太にものすごい勢いで襲い掛かる。


――ブッシャァァ!


とものすごい水量だ。

息を切らしながらも、彼らの目は翔太に向けられている。


「……ウキキ。」


「ウキ?」


 真央はいたずらっ子のようにニヤリと笑い、翔太に向かって猛攻をしかける。


「やーっ!」


「なにっ!」


 真央は、大声で叫び、翔太の背後に回り込んで羽交い締めをしてきた。


(はやい!)


 突然の動きに驚いた翔太は、一瞬動きを止める。


(何かが当たっているぅぅぅ!)


 その隙を見逃さず、悪ガキどもは水鉄砲を構えて至近距離から翔太に放水する。


「これでも食らえ!」


「……! 顔はやめろって!」


 翔太は下半身もびしょ濡れになる。


「……くそがぁ! 離せぇ!」


「柔道黒帯の実力はこんなもんじゃないわ!」


 翔太は、一層圧迫されて歓喜してしまった。


「この程度じゃ俺は倒せないぞ!」


 名残惜しいが、このままでは俺は子孫を繁栄できない。両親に孫の顔見せるまでは倒れるわけにはいかないのだ。翔太は真央の絞め技を振りほどく。


(警官と小説家の遺伝子なめんなよ!)


 全力で水鉄砲を放ち、次々と子供たちを攻撃する。水しぶきが飛び交い、夕焼けに染まる河川敷は一瞬にして水の戦場と化した。緊張感が一層高まり、誰もが次の一手を待ち構える。

 真央は再び戦場を駆け回り、翔太の周りをくるくると回る。


「追いつけるものなら追いついてみな!」


 翔太は必死に追いかける。もとい、最初から絶対絶命である。

しかし、真央は子供たちのカバーもあり、巧みに逃げ回る。

翔太は悪ガキどもに、砂をかけられ立ち止まる。


「真央ねぇちゃん! 今だ!」


「これで終わりだ、翔太!」


 真央は最後の一撃を放ち、翔太に向かって水を噴射する。水の弧が夕焼けに映え、翔太に向かって一直線に飛んでいく。


「グ……グハァァァァァァァァァァァァァァァ」


「ハァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」


 悪ガキの勇気と愛が真央の力としてみなぎり、勢いが増す。

クライマックスの迫真の光景が河川敷で広がっていた。


(謎エフェクトがかかっているぞ!?)


「……ぐふ!」


 翔太は大げさに倒れ込み、勢い余って川に落ちる。悪ガキ共は大笑いする。


「勝ったァァァ!」


 真央は両手を挙げて勝利を宣言し、周囲とハイタッチを交わす。


「いえーい☆」


「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「イエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエイ!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」


「オオオオオオ! 宴だぁぁぁぁ!」

                「ラムネもってこーい!」

「さすが、真央姉だぜ!」

            「すげーぜ! 大将!」

 

 シャンパンバーティのように、ラムネが噴き出しいる。日本シリーズを優勝したような光景が広がっている。

 笑い声が響き渡る中、戦場だった河川敷は徐々に静けさを取り戻していった。夕焼けが水面をオレンジ色に染め、先ほどの激しい戦いの跡が残る場所に、名残惜しい風が吹き抜ける。

 その時、遠くから足音が近づいてきた。佐々木翔太の友人(仮)、高崎敦が現れ、緊迫した表情で駆け寄ってきた。彼の姿が現れると、一瞬で場の空気が変わり、シリアスな雰囲気が漂い始めた。


「佐々木……? おい! しっかりしろ!」


 友人(仮)は心配そうに翔太に駆け寄る。


「敦か……? 視界がかすんで見えない……。」


「あぁ! 俺だ! 今、衛生兵を呼ぶからな!」


「いや、どうやらもう。」


「その姿でもうしゃべるな!」


 ちなみに、翔太は残念イケメンとクラスの女子から言われている。


「聞いてくれ……。おれの同人誌を……燃やしておいて……。」


「おい! しっかりしろ!」


「風呂に入り……た……。」


 翔太は疲れ切った表情で、意識を失った。


「佐々木ィィィィィィィィィィ!」


 真央はその様子を見つめながら、胸の奥に広がる焦燥感を感じた。夕焼けがその影を長く引き伸ばし、河川敷は再び静寂に包まれた。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 悲痛な叫びが上がる。まるで、世紀末の瞬間が広がっていた。

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