第11話 職員会議
食堂を出た光太郎とリリーは、広大な敷地の中を歩いていた。
見渡す限りの美しい景観と巨大な建物群に、光太郎は思わず感嘆の声を上げる。
「はー……デカい建物だな。これ、東京ドーム何個分だろ?」
「トーキョードーム?ああ……あの、丸くて大きな建物でしたわね」
リリーは昨日、光太郎の記憶から見た日本の風景を思い浮かべながら答える。
「そうそう、俺のいた世界にそんな名前のデカい建物があるんだよ。それより、この学校の方が何倍もデカいなって思ってさ」
「当然ですわ。このハオールカ魔法学校は、この世界でも屈指の規模を誇りますから」
リリーは涼しい顔で答えながら、扇子をパチンと広げる。
「で、校長室ってどの辺なの?」
「こちらですわ。本館から伸びている塔の先っちょをご覧なさい」
リリーは扇子で前方を指し示す。目を凝らした光太郎が見たのは、地上300メートルはありそうな高い塔だった。
「あそこ!?めっちゃ高いな……まぁ、良いトレーニングになりそうだけど」
「オホホ、勇ましいのね。でも、その必要はございませんわ」
リリーは足元を指し、床にある大きな丸い模様の上に立った。
「どういうこと?」
「よく見ていなさい。お先に参りますわ」
そう言うと、リリーは足元の模様を軽く踏み込んだ。すると彼女の身体がふわりと風に包まれ、あっという間に上階まで移動してしまった。
「コタロー!こっちよー!その模様を力強く踏み込むんですわー!」
上階から手を振りながら叫ぶリリーの姿に、光太郎は半信半疑で模様を踏み込む。
「どれどれ……お、お、わはー!」
風に包まれた瞬間、彼の身体はふわりと宙に浮き、リリーのいる階まで運ばれていった。足元がスッと緩やかに着地する感覚に驚きながらも、光太郎は大きく息を吐いた。
「スッゲー便利!これならこんだけデカくても移動は楽ちんだな!」
「そういうことですわ。これがエアポータルですの。では、次のポータルまで参りましょう」
「エアポータルか!よし、覚えた!」
初めての魔法装置にテンションが上がった光太郎は、次々と移動を繰り返しながら塔を登っていった。やがて二人は、塔の最上階に到着する。
吹き抜けの渡り廊下から中へ入ると、そこは荘厳な雰囲気が漂う空間だった。
「やっと着いた……あれさ、途中で落ちたら死ぬよな」
「ご心配には及びませんわ。この学校には校長先生が張り巡らせたキネシスがございますの。落下物の速度を一定以下に緩めて、無事に地面へ降ろしてくれますのよ」
「へぇ、キネシスか……便利だな。それにしてもさ……リリー、スカートで飛ぶのって……」
光太郎が指摘すると、リリーはちらりと彼を見てその額にデコピンした。
「おバカ……」
「痛え!!」
「ちゃんとスカートがめくれないように魔法で配慮されていますわよ。心配無用ですわ」
リリーは涼しい顔で扇子を扇ぐと、校長室の扉を指差す。
「さて、こちらが校長室ですわ」
「でっけぇドア……」
光太郎は目の前にそびえ立つ巨大な扉を見上げ、思わず呟いた。その厚みと彫刻の精巧さに圧倒される。
「さ、参りましょう」
リリーは扇子を閉じると、扉を軽くノックした。重厚な音が廊下に響く。
「入りたまえ」
中から低く響く男性の声が聞こえた。
「失礼しますわ」
リリーが扉を押し開けると、光太郎とともに校長室の中へと足を踏み入れる。
室内は広々としており、天井の高い空間に荘厳な雰囲気が漂っている。だが、窓には厚手のカーテンが閉められ、部屋全体は薄暗かった。
中央には円卓が置かれ、その周囲には数人の教師たちが静かに座っている。その中の一人が立ち上がり、二人に歩み寄った。
「待っていたよ、ストラングス嬢。それにコタロー君。この席だ。座りたまえ」
リリーの召喚に立ち会ったミアージ先生だった。彼は柔らかな笑顔を浮かべながら二人を席へと案内する。
「校長、ストラングス嬢と少年が参りました」
「うむ……」
円卓の上座に座る老人が、低い声で返事をする。その声には重みがあり、光太郎は自然と背筋が伸びた。
そこに座っていたのは、長い白髪と白いヒゲをたくわえた老人だった。彼の顔には深い皺が刻まれ、その眼光は鋭く、全身からただならぬ威圧感を放っている。黒いローブを纏ったその姿は、絵に描いたような大魔法使いだった。
「ストラングス嬢……召喚の儀式、ご苦労じゃったな」
「ありがとうございますわ、校長先生」
リリーが礼儀正しく応える。
「さて、君」
老人の視線が光太郎に向けられる。その目の迫力に思わず体が硬直する。
「は、はい!」
光太郎は反射的に大きな声を出した。
「ワシはこのハオールカ魔法学校の校長、クスリ・バダーマと言う者じゃ。君は、名を何と言う?」
「巻島 光太郎……って言います。よろしくお願いします!」
光太郎は勢いよく立ち上がると、深々と頭を下げた。日本式の礼に、円卓の教師たちは少し驚いた様子を見せた。
「ほほほ、元気がよくてよろしい」
校長は満足そうに微笑みながら頷いた。
「さて、今日二人を呼んだのはの……我々全員が、己自身の耳でコタロー君の言葉を聞くためじゃ」
「俺の……?」
光太郎の胸が高鳴る。彼を囲む教師たちの視線が一斉に集中し、緊張感が一気に高まった。
「何、難しいことはない。小一時間ほど、我々の質問に答えてくれるだけでよいのじゃよ。あ、ホレ」
校長先生がそう言うと、部屋の奥からふわふわとお茶とお菓子が宙に浮かんで現れた。ティーポットや茶碗が魔法の力で滑らかに動き、目の前に整然と並べられる。
「お茶会のようなものじゃ。肩の力を抜いて、話してくれればよい」
その穏やかな口調に、光太郎は少し肩の力を抜いた。
「わかりました……」
「ではまず、年齢は?」
「17歳です」
「ほう、17歳か。若いな」
「では次に──覚醒している属性は?」
光太郎はその質問に戸惑った。「覚醒している属性」という言葉の意味がわからなかったのだ。困り果てた様子で視線を彷徨わせていると、優しい声が耳に届いた。
「わからなければ、わからないと答えていいのよ……?」
「えっ……い!」
光太郎の目に飛び込んできたのは、若い女性教諭だった。優美な顔立ちと柔らかな微笑み。そして何より、胸元を大きく開いた服装があまりにも目立っている。サイズもまるでメロンのように大きい。
光太郎の目がついそちらに釘付けになる。
「わ……」
隣に座るリリーが、即座に肘で光太郎の脇腹をつついた。
「何を見てるんですの」
周囲の男性教諭たちはその様子を見て、口々に「わかる……」「誰でもそうなる」と、妙な共感を表している。
すると、どこからか声が響いた。
「少年」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます