第2話終わりかけた

終わった。完全に終わった。

異世界転移で、言語未習得は完全に終わった。

おばちゃんに明らかに日本語でも英語でもましてや聞き齧ったことのある言語でもない発声をぶつけられた俺は、完全に思考停止し、さっきまでの定位置に戻ってきていた。話しかけておきながらおばちゃんを放置してしまったが、あの瞬間に言葉が通じないなりの円満な別れ方をすることは流石に無理だった。

頭がくらっとして座り込む。

改めて状況を反芻すると、どっと冷や汗が噴き出てきた。

どうするんだ。どうするんだ?俺はどうやってこの世界で生きていく?

死への恐怖ではない。ただひたすらに、自分の選択肢が全く見えてこない不安が心の中で肥大化していく。

「俺は・・・俺は・・・」

どうしたらいい?


肩を叩かれた。

俺の体は大きくびくんと跳ねた。

完全に想定外の事態に、俺は少しの間逡巡した後、恐る恐る顔を上げた。

おばちゃんだった。

おばちゃんは短く何か言うと、背中の籠を下ろして中の青い果物を1つ取り出した。

そして、にこっと笑いかけると、俺に果物を差し出してきた。


俺は確信した。

ここは現実だと。頭に強烈に刻み込まれた。だって。

目の前の人は生きていた。

本当に生きていた。意識を持って生きていた。

そして、言葉の通じない俺を、道の隅にうずくまる俺を、見るに見兼ねて手を差し伸べてきた。

本当なんだ。この世界は。

本当に、「現実」なんだ。

よぎった。ああ、よぎったよ。

このおばちゃんは奴隷商人かなんかで、この青い果物は麻薬成分が入ってるんじゃないかってね。

俺は果物を


受け取った。

おばちゃんの方を見て、食べるジェスチャーをした。おばちゃんは、うんうんと頷いた。

俺はかぶりついた。

薄い皮の下に、リンゴより少しやわらかいような果肉が詰まっている。味は、オボンの実だった。想像上の、オボンの実の味。それ以外に表現ができない。見た目はオレンの実に近いのに、そっちかよ。


え?

視界が明滅する。頭の中がぐわんぐわん回り出し意識を保てない。いや嘘でしょ。ありえないでしょ。おばちゃん、どういう、



ここで意識は完全に途絶えた。



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