異世界でメガネを守り抜け!

@sssuo

第1話メガネ、異世界転移

「ふと気がつくと」。

本当にそう説明するしかない。

何の前触れもなく、俺はここに立っていた。

照りつける日差し。こんなに強い日の光を受けるのは数ヶ月ぶりだろうか。錆びついた瞳孔が無理をして、眼球に鈍い痛みを感じる。

意識ははっきりとしていた。ただ、脳が情報をどうにか整理し、声を発することが出来たのはたった今だった。

「・・・なんだ・・・これ」

掠れた声だった。当たり前だ。もしかしたら目以上に使ってこなかったかもしれない。

それでもどうにか発した声は、俺の中に渦巻く色々なものを吐き出させてくれた。

そうだ。俺は。俺は・・・、

俺の名前は小林藤二郎。21歳。東京大学中退。親の仕送りでアパート一人暮らし。PCゲームとアニメ、漫画、ラノベに溺れる毎日。これが俺。働きたくないというただそれだけで、エリートだったはずの人生のレールを踏み外し、引き篭もりとなった社会の底辺。そんな俺が今


「異世界にいる・・・・・・」


レンガが敷き詰められた地面。オレンジ色の屋根をした中世ヨーロッパと言われる建物。そんなもの、ただのおまけにすぎない。

目の前を通り過ぎる人!馬車!それら全てが、ここが自分の知っている異世界だということを暴力的なまでに、鮮明に伝えてくるのである。ケモ耳、ドワーフ!エルフはいないな・・・巨大な剣を背負うガタイのいい兄ちゃん!馬車を引く緑の巨大トカゲ!あれ絶対魔法使いだろ、なんか宝石ついた杖持ってるし!

・・・少し落ち着こう。

あまりに鮮烈な光景に、興奮してしまった。

息をゆっくり吸って吐くと、俺はメガネを直した。


落ち着いた俺は、考え始めた。

まず、これが夢かどうか。

これに関しては、さっきからずっと頭によぎっている。だが、正直考える必要も頬をつねる必要も無い。普通に、目の前の世界が夢か現実かなんて分かるだろ。あまりにリアルな景色、刺激される五感。これは現実だ。

まあ、俺が今までに経験が無いだけでこういう夢が存在するという可能性はあるにはあるが。まさしく胡蝶の夢の可能性だ。

次に、言葉が通じるか。

俺はかなりのラノベを嗜んできた。その上で一番大事なのは、言葉が通じるかだと思う。異世界転移系統はほぼ全ての作品が、文字は読めないが言葉は通じる、だ。それもそう。言葉が通じなければ、着の身着のままでやってきた主人公は最初に何をすればいいというのか。このスタートを埋め合わせるには、かなり強引な展開が必要になってしまう。それ故に、言葉が通じるというのは異世界において必然だ。

・・・だからこそ、本当に心配です。言葉が通じなかった場合、ダークファンタジー一直線になりませんか。

俺は少し震えながら、言葉が通じるか試す方法を考える。まあ、とりあえず目の前の誰かに話しかければすぐに分かるだろう。ただ万が一すごい差別がある可能性を考えて、話しかける相手はできる限り普通の人間の御方がいいかもしれない。逆に人間に話しかけてまずいことになる可能性があるとしたら何だろうか。・・・貴族ぐらいか。流石に見て分かると思いたい。

あと、裕福そうな人の方が好ましいか。心や時間に余裕があれば、リスクが少ない上に話を聞かせてもらいやすいだろう。

じゃあ、何て話しかけるか。これは、パッと思いついた。テンプレだ。

「冒険者ギルドがどこにあるか教えて頂けませんか」

これは、改めて考えるとかなりいい質問に思える。言葉が通じるか、冒険者ギルドがあるのかという重要な二つの要素を順番に確かめることができ、例え冒険者ギルドが無くてもそこから魔物やダンジョンの話に繋げれば世界観の把握において大きな一歩になるだろう。少し考え直してみたが、問題も見当たらないし、より良い案も浮かばない。時間は有限だ。一度自分からアクションを起こしてみよう。

俺は勇気を振り絞ると、少し人の流れを眺めた後、少し太った優しそうなおばさんに声をかけた。

「すいません、道を聞きたいんですけど」

「あぶぅくたなかるぁゃんに」


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