第43課題 ウォール・トゥ・クライム09
ここに来て、
マジ、か……。
突然足が重くなる。
下を見ると、
幻覚にしてもタチが悪いよね。
でもこれは、アタシが作り出したもんだ。きっと、心の片隅で「なんで今なの?」とか「うっざ!」とか思っちゃってるんだろうね。わかるわかる。アタシって美人でスタイル良くって社交性もバッチの最高ギャルだけどさ、そう言う心の狭いところあるもん。認めるよ。実際そのせいでこの前は
それは、反省しないといけないっしょ。
無敵のギャルは、いつだってヨユーだから、人にやさしくできるはず。まして、心を打ち明けてくれたペア……友達……ううん。
アタシは足にぶら下がっている
もしもアンタが足を引っ張るなら、アタシがその手を引っ張ってやるよ。そしたら同じ景色を見れるようになるじゃん。
「
『ごめん! すぐ戻すから!』
「焦んなー」
『え?』
アタシは笑っていた。だって今一番キツイのは
「
『……うん』
「いい子じゃん」
『お母さんじゃないんだから』
「そう言えば
今のこの状況とは関係のない話。
『服って?』
「オシャレなやつ」
『ううん。自信なくて』
「なら言えよなー。言ってくれたらアタシがまた一緒に行くのに」
『いいの?』
「当たり前じゃん! アンタさーアタシのことなんだと思ってんの? ダチなんだから行くに決まってるっしょ。んで、今度はハンバーガー以外食べよ。バーガー三兄弟と会うのはもうヤだから」
『そうだね。でも、どこが美味しいかわからなくて』
「あの辺はアタシの庭だから。任しといて」
『頼もしいなあ』
そんな感じで他愛もない話をした。いや、大事な話かも。だってデートの約束だもんね。童貞にとっては死ぬほど大事な話だきっと。……なんて、アタシにとってもすごく重要な話だよ。アタシも処女だし。これ知ったら驚くだろうなあ。みんなに合わせるためにテキトーな人数と経験したことにしちゃってるけど。
でも、それもバレてたりして。
『
『戻って来られたよ』
アタシが差し出していた手を、
「おかえり」
そう言ってぐっと持ち上げた。
『ただいま』
「そんで、どう? 行けそう?」
『うん。でも、
さっきは聞き流していたけれど、実況がわめいてたから多分順位は入れ替わっている。
『ここから勝ちたいとなると相当無理するけれど、どうしようか』
「勝ちたいよ」
もう今は、ただただクライマーとして勝ちたい。同時に、アタシを勝たせようとしてくれる
「
『わかった。なら随分無理するから付いて来て。デッドポイント、攻めまくるよ』
デッドポイント。勢いを付けて体を伸ばしきってホールドを取りに行く、掴めなかったら終わるムーブだ。でも今は怖くない。落ちたらどうしようより、
「あいよー」
『右下に行ってそこからランジ。右手で取りに行って。その勢いを使ってさらにランジ。今度は左手』
確かに無理してるかも。下の方の、まだ体力がある状態なら行けるかもだけど、疲れがたまっていて風も強いこの状況じゃあなかなか行こうって思わない。でも“
ランジ、ランジ。そのあとも息吐く暇なしにレベルの高いムーブを要求される。アタシはそれでも
自分の中の成るべきはずの自分がどんどんと解放されていく。なんかまるで、花が開くような、殻を破るような、とにかく内側から外側に向かって膨らんでいく感覚だった。
汗が引いて疲れが飛んで、手足をどこにでも持って行けるように思えた。
「ねえ、
10メートル以上先にある頂が、とてもすぐ近くに感じた。
『わかった。僕が思う、
『僕は今ルートを案内してない。有り得ない道を切り拓いているよ。一歩間違えば滑落する道を選んでいる。でもそこは死路じゃない。獣道だ。将棋では味わえなかったよ。
それなら良かった。
「
『
「最強じゃん。ん? 待って、それ最初からじゃん」
『はははっ。それはそうかも』
どんどんと登っていく。でも、限界は感じない。とうの昔に超えているからかも。かも? 自分でもわかんないなんて、マジウケる。
――あっ。
これは無理かなって思ったホールド。指示を変えてもらおうかなと思ったら、そこに
あそこに届かせるにはサイファーしかない。
『マァアアアアアアアアアッチ!! 両者同着だぁあ!』
うっせ。ちょ、うっせ。実況、もうほんと声量加減してほしい。
てか両者同着ってなに?
そう思うのと同時に、いつもはないはずの感触が自分の手の甲にあるのがわかった。
アタシは脇を絞めて自分の体を引き上げた。頂上は向こう側と繋がっていた。アタシの手の甲にある感触の正体は、向こう側から登って来た
ん? 待って? アタシの手の甲に
『初めに頂に手を掛けたのは
勝ったんだ。
隣にいた
『おめでとう』
「ありがと。でもそれ、アンタもだから」
『確かに』
「おめでとう」
『ありがとう』
こうしてアタシたちは日本一になった。
壁の向こう側で、
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