第40課題 ウォール・トゥ・クライム06——【紗々棋一葉7】
声が聞こえる。
『お願い。誰かひなちゃんを止めて』
『
『えっと、
『なにがあったんですか?』
どういう理屈かわからないが、会話ができた。頭の中で直接話しているような感覚だ。
目の前の壁のオブザベーションをしつつ
どうやら
なぜそんなことをするのかまで説明されたけれど、正気の沙汰ではない。
『何色を登ってますか?』
『青色』
青か。だとすると赤を登る
『ひなちゃん!』
悲痛な叫び声。なにが起きた。落ちた? 最悪の事態が頭を駆け巡る。僕はほとんど無意識で、瞬間的にドローンを操作して壁に突っ込んでいった。
——上から
視界の端に影がすべり落ちて来る。
間に合うか。
落下してくる
間に合え!
機体が体に接触。
視界が真っ白に包まれた。
行けたか!?
なにも見えない。
FPVゴーグルの側面のボタンを押して、前方視モードに切り替える。
壁が映る。そこにはゆっくりと落下してくる白い球体があった。よくよく見ると
「ふぅううううう」
とてつもない疲労感に襲われて大きく息を吐きながらその場に崩れた。そしてその横に
周りがやかましい。実況の声もいっそう大きかった。
『
その言葉でハッと我に返る。
「ごめん、
『なに?』
「ドローン、壊れた」
しかし彼女は安堵したようなため息を吐く。
『良かった。
「うん。セーフティボール」
僕は先ほどの
『そうだったんだ。危なかったじゃん。
「でも、ここからオブザベーションができない。ごめん」
『謝んなってー。アンタの男気でアタシもテンアゲしたし、こっからは一人でも行けるからさ。あ、別に
「うん、大丈夫。そこはわかっているから。ありがとう」
「あの、
荒い呼吸の
「はい。あ、
「命に別状は、ないそうです。ただ、今は、意識を失っていて」
「そうなんだ。まずは良かった。早く目が覚めるといいですね」
僕が笑顔を向けると、彼女は眉をハの字に曲げて、それから深々と頭を下げた。
「本当にありがとうございました! それと、ごめんなさい。ひなちゃんを助けるためとはいえ、あなたたちの邪魔をしてしまった」
「そんなの、あの状況じゃ仕方ないですよ。まあ、本当はちゃんと安全に登ってほしかったですけど、今騒ぐようなことじゃないですし」
彼女は大きく深呼吸をして整えると、顔を上げ、持っていたFPVゴーグルとプロポ、それからドローンを渡して来た。
「バッテリーも新しくしておきました。使ってください」
「いいの? というか、ルール違反ではないですか?」
「オブザーバーの道具についてはルールの明記がありませんから。それにさっき医務室に行った帰りに、審判に事情を話して、他の選手に道具を貸しても大丈夫かどうかの確認を取りました。道具は途中で変えてもいいし、道具を使わなくてもいいと。ルールを犯したわたしたちが言うのはおかしな話ですが、ルール上はなんの問題もありません。だから、わたしとひなちゃんの分まで頑張ってください」
僕は素直に受け取るとFPVゴーグルを装着した。ゴーグルもプロポもドローンもペアリング済みだ。
「ありがとうございます。
発作を起こして何度も倒れたことがあるからわかる。目が覚めたときの混乱を一番落ち着かせてくれるのは、近しい人の声だ。
「
『うん。来れんの?』
「行ける。すぐに向かうから」
『じゃ、待ってるね。なんかアタシ詰んだっぽいから』
「いよいよ僕の出番ってわけだね。腕が鳴るよ」
『頼りになるぅ! そんじゃヨロ!』
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