第29課題 月見杯02
『今回の月見杯は一味違う! 最近頭角を現し始めたスーパールーキー、
驚いた。大会側に認知されているんだ。実力的に認められていると言うのもあるのだろうけれど、
みんなスタート位置に着く。FPVゴーグルを装着してドローンのコックピットに入り込む。
——プォオンッ。
スタートの合図と共にドローンを飛ばす。ホールドの配置は序盤から難解だ。最初の5メートルまでで随分複雑なルートばかりになることが予想された。
スローパーだけでなくハリボテがそれなりに配置されている。ハリボテと言うのは背の低い四角推型の構造物だ。ホールドが石だとすればハリボテは岩のよう。スローパーが苦手な
『おおっと! なんと
遅れること数秒で全体像を掴む。今までの大会通り死路は存在しないが、
掴みやすいホールドが多いのは青。
「青だ。
『はいはーい』
いつもの声色が返って来た。
僕は細かく指示を出していく。
『え? 右に下がるの? 上に行けそうなのあるよ?』
「行けそうなだけで行けないから」
いつもは素直に聞いてくれる
僕は持てる限りの思考をフルに使っていく。彼女の軌道を描いて行く。大丈夫だ。行ける。まだ追いつける。が——。
「違うそっちじゃない!」
『え!? でも下って言ったじゃん』
そうか。僕からは見えているホールドも
「そこから足を入れ替えて」
ここから再計算を行うしかない。僕はフル回転していた脳をさらに酷使する。
『早い早い!
『ねえこのままじゃ負けちゃう!』
実況からの情報で
実際このままミスなく登れたとしても
『最短ルートでお願い!』
彼女の願いだ。僕は先ほど考え直したルートを破棄し、再構築し始める。
50手で詰められる内容を30手以内に詰められるように改変していく。ランジとサイファーだけじゃあなんともならないか。
「スローパーも使うよ」
『おっけー!』
彼女は苦手なホールドも受け入れると言っている。どこまで対応できるかわからないがなりふり構わず突き進むしかない。
『ここで
追い越せる。
『
……えっと。……なんだっけ。
思考がふわふわする。さっきまでレールの上に乗っていた車輪が、突然浮いたような感覚。思考が支離滅裂に飛び交う。
僕、なにをしていたんだっけ?
『ねえ
誰だっけ。この声。どこから聞こえてくるんだっけ。
「あ、えっと」
これは、この症状は発作が起きる前の状態だ。記憶が飛んでいる。
正直今なにをしているのかわからない。多分ボルダリングをしている。で、僕はドローンで空撮している。さっきの声は
『次もランジでいいの? 飛ぶよ?』
いいの? 飛ぶ? そもそもランジって? わからない。わからないけど
「飛んでいいよ」
『きゃああああああっ!』
消えた。
落下したのだ。
呆然とする中、ボフッと言う小さく空気が爆ぜるような音が響いた。
『あぁああっと!
ドローンで音がした方を見ると、丸い風船のようなものがクッションの上に落ちていた。
クライミングベストが作動して、
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