第26課題 クワガタカップ03——【火登燈香2】
『青のルートで行くよ。まずは右上に右手。右下に右足。そのままダイアゴナルで左上に左手』
ダイアゴナルは対角線と言う意味だと
体を横に振りながら登る登り方。左足をホールドにかけたら、対角線の力を利用して、右手でホールドを掴みにいく。右手右足の法則がベースになる。足をかけた勢いのまま、重心移動を行うことができるから縦方向にずんずん進める。
やさしいとかそう言う次元を通り越していると思う。
『基本は正対ムーブかダイアゴナルで行けるよ。ランジやサイファーは使わない。滑るからね』
今も
言葉だけでこんなに安心するなんて、多分初めてのことだと思う。いつもアタシは、触れていないとダメで、守ってくれる証明がないとダメだった。でも今は、ずっとそばに居てくれるみたいな感覚に包まれて、少しも不安に感じなかった。多分ちゃんとアタシのことを見てくれているからなんだと思う。全部見て、アタシのためを考えて言葉をくれるから。だから、なんでもできるような気がした。
しばらく登り続けていくと、なんだかむわむわーっとした湿り気の強いエリアに突入した。
「霧?」
『あなた……いったいなに?』
それは
濃霧の中から聞こえてくるようだった。壁の作り的に他の選手は見えないし声も聞こえないはずだけれどなんとなく
『この得体のしれないプレッシャーはあなたのものだったの』
『そーなん? 得体のしれない呼ばわりはムカつくけど、プレッシャーは出しちゃってたかもね。王者的な。あ、王じゃなくて銀か』
『ここは私の領域よ! どうしてそんなに軽々と来られるのよ! 雨が降っているのよ? 雨の日は私たちが勝つ。これは決まりなの』
『どこ情報だよ、それ』
思わず笑ってしまった。
『私たちはずっと日陰で戦って来た。太陽に嫌われた存在だから。あなたのように太陽の下でしか戦えない人間は太陽が出るそのときを待てばいいのよ』
『ヤーだよ。なんでそんなもんに従わなきゃいけないの。太陽とか雨とか関係なくない? アタシはアタシ。ギャルに天気とか関係ないから』
濃霧を追い越していく。
『どうしてそんなスピードで登れるのよ。滑落するかもしれないのよ。なんで萎縮しないのよ。怖がらないのよ。どこからそんな勇気が出てくるのよ』
『勇気ってーか、平気? アタシは
言葉だけじゃなくて、クライミングパンツもシューズもくれた。アタシが生足だとケガするからって。これだけのやさしさに守られて、負けるわけなくない?
『てーかさー、アンタもアタシに色々指図すんじゃなくて、アンタはアンタで別に好きに勝てばいーじゃんね? 太陽が出てる日にもさー。なんか遠慮して負けてあげてたん?』
『いや、そんなことは。そもそも晴れてる日がなくて』
『え、マ? 令和ヤバッ。そんなこともあるんだね。さすがにかわいそうだわ。え、でも100%?』
『100%ではないわ』
『あ、なーんだ。なら別に、雨が降ってない日でも勝つって言いきりゃいーじゃん。なんで雨の日だけって決めつけてんの? それとも誰かに勝っちゃダメって言われたの?』
『えっ……。ダメ? 誰かに……? 誰……だろう……』
それから
徐々に雨脚が弱まっていく。頂は近付いて行く。少し回り道をするルートだったけれど、安全に行けた。
ゴールにマッチしたとき、
『
曇天が裂けて一条の光が手元を照らした。下を見下ろすともうあの霧はなくなっていた。途中で置いてきちゃったけど、この光、
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