第21課題 二人の休日01——【紗々棋一葉4】
人でごった返した週末の駅のホームを抜けて、改札を通る。人の波の中から抜け出して、犬の銅像の前に辿り着く。ここが彼女指定の待ち合わせ場所だった。
今日の僕はこの
周りにも誰かを待つ人が数人いた。待ち合わせを果たして人混みに溶けていくカップル。みんなデートか。いいな。僕も好きな人とデートをしてみたい。できることならこのまま
すると人混みの中からしなやかに揺れる銀色がこちらに向かって来た。
「お待たせっ! てーかまた負けたー」
「なにに?」
「集合時間タンドリーチキンレース」
「競うものじゃないよ。早く来ようとしてくれるのはありがたいけれど、待たれていたら申し訳ないし」
「それな。
言われてみればそうだ。でも休日を持て余している僕が待つのと、忙しい
「じゃ、行こっか」
「もう行く店決まってるの?」
「うん。任せてよ」
せっかく調べて来たのにと言う気持ちはあったけれど、そもそも
先を行く
不意に彼女が振り返る。
「そー言えば」
内心が聞こえてしまったのかと思って心臓が跳ねた。
「今日、アタシが選んだコーデで来てくれたんだ。めちゃ嬉しい。ありがと」
快活な笑みに上手に僕は笑顔を返せない。そうなのだ。これはデートではないと言い聞かせながらも、僕は彼女の選んだ服を着て来ている。浅ましくも、この一瞬をデートとしてカウントしようとしているのだ。それを見破られてしまったような気がして怯んでいると、手が差し伸べられた。
「はぐれんじゃねーぞ」
ニッと今度は
僕はバクバクする心臓を押さえられないままに彼女の手を握った。やわらかく、そして湿っている。でもいたるところにマメができていて、部分的に固かった。都会的でギャルな彼女の、努力家で泥臭い部分を僕だけが知っている。さっきは上手に作れなかったはずの笑顔が、自動生成された。きっととてもだらしない顔になっていたと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます