第18課題 鷹戯・紺瞳ペア01——【紺瞳璃々】
ひなちゃんを勝たせたい。
それがわたしの、
昔から運動が得意なわけでもなく勉強が得意なわけでもないわたしにとって将来の夢と言うのは非常に難解な方程式だった。将来の夢が解だとして、解を求めるための数字が圧倒的に少ないのだ。イコールの右と左にxとyとzがいくつもあるだけで数字などないから、具体的な解を求めることができない。
それでも将来に目標を掲げることを強要してくるのが学校と言う空間だった。将来の夢のために好きになれるものを探していたとき、ダーツに出会った。たまたま友達と行ったとき、初めてやったのに、経験者の友達より上手くできたと言うのがきっかけだった。よくあるきっかけだと思う。それで、実際にやってみたら思っていたよりも難しくて挫折する……なんて、そう言うありふれたストーリーの中に身を置く中学生だったら、いくらか楽だったかもしれない。軽い自惚れと軽い挫折で、数年後には笑えるような一幕だったら。
わたしは本当にダーツが上手かった。実際にやってみたら思っていたよりも簡単だった。わたしは筋力や持久力はないけれど、肘の動きや手首の動きを正確にコントロールする能力は誰よりも高かった。そして一度やった自分の動きをトレースするのも上手くできた。だからずっと勝ち続けた。自信を付けたわたしはダーツの大会に出場した。そこで優勝した。初出場にして優勝。周りは沸いた。わたしの瞳が青いことと的の真ん中を引っ掛けて“
初めて浴びる脚光にわたしは興奮した。勉強は中の上で、運動は中の下。読書感想文や自由研究で賞をもらったこともなければ、絵を描いたり歌を唄ったりして褒められたこともない。そんなわたしが、人生で初めて得た光だ。あまりに眩しかった。だからかもしれない。わたしに先天性の目の病気があることに気付いてしまったのは。
——
眼球が痙攣したように細かく動いたり揺れたりする病気。物を見る角度によって眼球の振り幅が広がり、頭が痛くなったり気持ち悪くなったりするものだった。人によっては視力低下などもあるのだそうだ。
わたしの場合は、視力低下はなく、中心を見ているときはさほど揺れないが、両目で右側を見ると大きく揺れると言うものだった。つまり、日常生活ではそこまで支障はないけれど、右手で構えたダーツを投げるために右側のターゲットを見ると、揺れてしまって狙いが定まらないと言うものだった。集中すればするほど揺れ幅が大きくなり、頭痛が酷くなった。そんな状態で放つダーツが狙ったところに当たるわけもなく、わたしの成績は見る見るうちに下がり、次第に的にすら当たらなくなり、大会に出るまでもなくなっていった。
お遊び感覚でやっているときは良かった。でも、期待されて勝たなければいけないプレッシャーが掛ると無意識に集中してしまい、瞳が揺れてしまう。無意識をコントロールすることも、プレッシャーを撥ね退ける強靭なメンタルを手に入れることもできなかった。
光は一瞬で消えた。夢に消費期限があるのだとすると、わたしの夢の消費期限はえらく短いものだったらしい。才能に
その出来事はわたしにとって間違いなく失明と言えた。それでもまだ、見えなくなった視界の先に夢を見させようとするのが学校と言う空間。
両親は言った。「目が見えなくなったわけじゃあないか」
教師は言った。「世の中には目が見えなくても頑張っている人がいる」
友達は言った。「君はまだ恵まれている方だよ」
中には視覚弱者が恋をして前向きになる本や夢を叶えるために日々努力している動画などのコンテンツを勧めて来る人もいた。わたしはトークアプリに貼られたURLを開きもしないで「ありがとう。頑張るね」と空虚なメッセージを返すだけ。それだけしか、できなかった。やさしさと応援に傷付けられ、疲弊していった。
わたしは、夢を見失ったんじゃあない。将来が続いている方向にどれだけ目を凝らしてみても、そこには暗闇しかないことに気付いてしまっただけなんだ。みんな「諦めるな」の一言でわたしが諦めることを諦めさせようとしてきた。闇ばかりを映す瞳に、一体どれほどの意味があるだろうか。闇しか見えないことと光が見えないこととなにも見えないこと。それぞれにどれほどの違いがあるだろうか。
「違いはあるよ。だって、闇が見えるなら、いつかどこかでなにかが光ったときに見落とさないもん」
そう言って光は突然目の前に現れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます