第14課題 アジサイカップ02
会場に着くより先に、壁と言う名の塔が見えた。アジサイウォールと言うらしい。
上から見ると正六角形に見えるこのアジサイウォールは、ウォール・トゥ・クライムの1/5スケールバージョンだ。この前の150メートル級を見たあとだと見劣りしてしまうけれど、30メートルも麓から見上げるとなかなか迫力がある。芝生の上にいるせいで緑の匂いが漂ってきて、山の頂上を見ている気分になる。
この大会はウォール・トゥ・クライムに出場するためのポイントを獲得できる部門と、初心者でも出場できる部門が同時に開催されている。そのため知名度が高く、参加者も多い。会場にはすでに多くの選手が来ており、それぞれウォーミングアップをしていた。ドローンを飛ばして動作確認をしている人たちもちらほらいた。
ボルダリングペアで使われるドローンは空撮用のものだ。レーシングドローンと違いガッチリした体格のものが多い。およそ30センチ四方はある。風のある屋外でのホバリングは、レーシングドローンのような小型ではやりづらいのだ。それに空撮用のドローンなら3次元的にセンサーが反応して、操縦士がなにも操作しなくても機体をその場でホバリングさせてくれる。オブザベーションや指示出しのために少しずつ上に向かう必要があるこの競技では、空撮用のドローンの方が圧倒的に向いていた。
僕がドローン部からレンタルしたこの機体は
これを持たされたとき、姿形が「スマートなカエルみたいだ」と思ってそのまま口にしたら、後日緑色に塗装されて帰って来た。そのため
「今日もよろしくねぴょん
今もう一つ呼び名が増えた。もしかしたら大会の度に増えていくのかもしれない。記憶力には自信があるので頑張って覚えて行きたいと思う。
場内アナウンスで「クライミングベストの着用を」と言う言葉が流れていた。これはクライマーの命を守るもので、隣を歩く
通常ボルダリングをすると言えば3~5メートルだ。
近年マットの技術が向上したことにより、10メートルの高さから落下してもケガをしないことが証明されると、10メートルの壁を使ったボルダリングが行われるようになった。さらにはクライマーの保護具も充実し、10メートルを超える壁もクライミングベストを着用すれば安全に登れることが証明された。
ベストは壁と連動しており、選手の体すべてが壁から1.2秒間以上離れると、落下したものとみなされ、エアバッグのように展開する。背中から展開された超軟性の風船は0.1秒で選手の体全体を包み込み、人の大きさのボールのようになる。これが体を全方位カバーし、クライマーは風船の中に入っているような状態になる。
壁から離れて1.2秒後には7メートルほど下降しており、落下スピードはおよそ時速42キロに達している。そこにエアバッグが展開することにより空気抵抗が生まれてパラシュート的な役割が果たされ、速度は一気に減退。着地時にはエアバッグにマットの衝撃吸収性が相まって選手は無傷でいられると言う。
マットと保護具の技術革新により、高くまでリードなしでダイナミックかつアクロバティックに登れるようになったボルダリング。それは映像的にも映えると言うことで、各種メディアにも取り上げられ、人気が急上昇しボルダリングペアなる競技が生まれた。
と言うのが、ホールドストーンにあったボルダリング情報誌に書いてあった内容だ。
また、必須ではないがクライミングベストと同じように超軟性の風船を展開してくれる球体——セーフティボールの所持も推奨されている。クライミングベストが開かなかったときのためのものだ。僕はそれをドローンのカメラの上あたりに付けている。飛行と観察の邪魔にはならないし、いざというときに後悔したくないから。これを使うとドローンが犠牲になるが命には代えられない。
ただ実際のところ、落下する瞬間にクライミングベストの展開の有無の確認はできないだろうし、よしんばわかったとしても落ちゆく人にドローンを当てることが可能なのかどうかは疑問が残る。水平移動ならば時速75キロで飛べる
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