第13課題 アジサイカップ01——【紗々棋一葉3】
アジサイカップ。
30メートル級の壁を登る大会に出場するため、僕と
「やっぱり似合うじゃん。和服」
待ち合わせ場所に来るなり、
「なんか恥ずかしいよ」
この前の『衝撃!
しかし鏡で服装を見れば見るほど、これを大会に着ていくのはなんだかもったいないなと感じるようになった。これはそう、オシャレをしてどこかに出掛けたいとき――つまりは光栄にも
でもそうすると逆に、試合用にちょうどいい服がなかった。それをそのまま
「
「戦闘服?」
「アタシの場合は登るときは動きやすい服装するわけじゃん? 上がトラックジャケットで下がショーツ。これって戦闘服だと思うんだよね。でもザーバーって全然変わんねーって思ってさ。まー実際? 動きやすさとかなくてもオブザベはできるべだからいいだべだけどべ。けど、アタシにコーディネートされたときさ、
「うん。すごく嬉しくて、ワクワクした」
「でしょでしょー? だからさ、まさに『僕はオブザーバーなので超考えてます! キリッ』みたいな服がザーバー的にテンアゲな戦闘服だと思うんだよね。したら余計に考えられそうっていうか。ほら、病は気からってゆーじゃん?」
それは今の使い方として合っているのだろうか。言いたいことは伝わっているからツッコミづらい。
「
そんな服、あーるあぁるんだろうか。考える人用の服……あっ。
「和服かな」
「……え!? ちょ、え、カッコよ! なんでそんなん持ってんの?」
「棋士を目指していたから。中学のときに親が買ってくれたんだ。でも今はタンスの肥やしになってる」
「いーじゃんいーじゃん! じゃ、今度の試合着て来てね」
「……え?」
「けってーい! カッコイイじゃん。え、めちゃ楽しみなんだけど」
などと言う理由により今日の僕は和服で馳せ参じることになった次第だ。あんなに楽しみにされたら着て来ないわけにはいかない。
サラリーマンがセットアップ姿でダサくなりようがないように、和服もセットアップなのでダサくはならない。前回のような事件性はないのでそこは安心だった。ただやはり周りが全員洋服の中和服と言うのは人目を引く。電車の中に入っていっそう視線を感じた。僕はそれがとても恥ずかしかったのだけれど、
隣に座ってピッタリ体をくっつけて「カッコイイ」と言って喜んでくれた。いつものからかいだろうかと彼女の顔を見上げる。潤んだエメラルドグリーンがキラキラと光って僕を見つめていた。心底嬉しそうな顔だ。
なら、まあいいか。
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