第10課題 ドローン01——【紗々棋一葉2】
けれどその前に、僕は僕として
300平米を緑色のネットで囲まれたドローン飛行場。その入口付近に置かれたベンチに座って、
「
「お前は、やりたいのか?」
眼鏡の奥のシャープな瞳が刺して来た。
「やりたい気持ちはある。けど、自信がない」
「自信、か。俺が大会に出るように勧めたときにもそんな断り方をしたな。腕前は確かだと思うが?」
「僕は、大事なところで思考停止してしまうから。部のドローンを壊してしまうのが怖かったんだ。なら、やらない方がいいかなって」
「誰だって、プレッシャーは感じるぞ。俺とてそうだ。お前がそんな風に思ってしまう根拠はなんだ」
「根拠……」
根拠はある。それは将棋を辞めた理由と同じ。持病のてんかんが、僕の思考を邪魔するんだ。薬を飲んでいるから倒れたりはしないけれど、それでも難しいことをずっと考えていると発作の予兆を感じるときがある。そして、倒れなくても記憶が飛んでしまう。今自分がなにを考えていたのか。なにをしようとしていたのかわからなくなる。すごく怖いんだ。さっきまでの自分の思考回路と感覚がなに一つ信用できない。
中学の頃、それを友達に話したら、嘘吐き呼ばわりをされた。
わかっている。普通ではわからない感覚だ。だから聞いてくる。「記憶が飛ぶってなに?」でも答えられないよ。僕だってそのようにしか言えないのだから。
理解を求めて言葉を尽くすほどに、嘘吐きとしての疑惑が深まっていった。結局理解は得られないまま、僕だけが傷付いて終わった。
「根拠もなく、ただ自信がないと言うだけなら、原因究明も解決もできない。つまるところ、
根拠はある。でも、
「ちょっと待ったー!」
ネットの向こう側から声が響いた。指がネットをガシッと掴んでいる。
「なんかよくわかんないけどアタシの話してたよね? そんで足を引っ張るとか言ってなかった?」
「ああ」
ネットから離れて駆け出す。入口を目指しているようだ。
「——ノンノンノンノン!」
大声を出しながら距離のある場所から全力で駆けて来た。
「
僕たちの前まで来て仁王立ちになる。
「そう言うわけで
早口でまくし立てて、
「そもそも禁止してないし、問題ないぞ」
「そうだよねわかるわかる確かにドローンは高額なものかもしれないし前例がないかもしれないけどそういうところでフロンティアスピリッツを——っていいんかーい!」
「
「そんなことはない。が、俺としても腑に落ちない部分もある」
「お前は実力があるのに、ずっとドローンレースに出なかった。何度勧めても、だ。なのに
僕の行動だけを見れば、
「無論、お前がそう言うつもりではないことくらいはわかっている」
僕の不安を察してか、
「だから、勝負しろ。俺に勝ったらドローンは自由に使っていい。その代わり負けたら今度のドローンレースに出場しろ」
なぜ勝負になるのかわからないけれど、それで
「ヒロヒロって案外脳筋なの? 青春の一ページを情熱と言う名のキャッシュでお買い上げしたい系? 一万円入りまーす!」
居酒屋の店員みたいに元気な声だ。
「じゃああとは
勝つだけって。相手はドローンを取り扱う
「勝負の内容は簡単。レーシングドローンでアスレチックコースをどちらが速く駆け抜けられるかの一本勝負」
スタート位置に滞空させて、ゴーグルの左側面のボタンを押す。今度は全体がドローンからの映像——まさに
「用意は良いか」
「うん」
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