第5話 サポート
「悪いねぇあんちゃん。酒飲ませた次の日に護衛なんてよぉ」
今日は木材収集の為キコリのお兄さんの身辺警護に
昨日無理やり酒飲ませた人。クルースさんは謝りながら俺の隣を歩く
「いえいえ、必要なことらしいので当然です」
この山は寒い。だからこそ暖炉の燃料となる木材は必須であり
多くの樹木が生えている樹海だからこそ木材を主に生計を立てている
なぜこの過酷な環境でギルドがあるのか。
それはこの山はただの山ではない
山は金脈、森は希少な果実や獣が生息している幻の地『アマミラク』
ハードな環境故に通常獲れない代物を採取出来る場所と今日知ったのだ
だからこそここに依頼するハンターは手練れが揃い
逆にモンスターが強力すぎて普通のハンターは敬遠する魔窟らしい
だからこそキコリやマタギのにーちゃんは並のハンターよりも強い
むくつけきゴリゴリマッチョマンなのだ。
疑問には思っていた。ただの山や森で生計を立てるのは無謀なんてものじゃない
木材を多くとれるにしても収支に全く合わない危険な場所
そこでどうして危険を冒してまでギルドを作り働いているか
疑問が氷解し装備のランクを少し上げたものを装備
「あんちゃん変わった装備しているなぁ」と言われて色々濁したが
ハンターに疎かったのが幸いしあまり言及されなかったのは運がいい
強豪モンスター『パルミラーズ』を素材とした装備一式
勿論この世界にパルミラーズなんていないのでこんな装備をしている人間はいない
装備は確かに強力だ。だが逆を言えば装備がなければひょろがりのただのガキに過ぎない俺は引きこもり生活脱却を若干後悔しながら大斧を片手で軽く持っているクルースさんに置いて行かれないよう歩を速めた
「それにしても…今日はやけに静かだなぁ。周りのモンスターが出てこない
初めてだよこんなの」
「そうなんですか?」
「ああ、モンスターは凶暴で餌が来たら真っ先に飛びつくからな
しかもここは弱肉強食が極まっていておこぼれにあずかるヤローが人間を襲う
上級は下級を。下級は人間をってシステムだな」
「おおう」
表情だけで済ませたが言葉にするとおぞけが走るワードばかりで内心ビビり散らす
それにしても俺がいる時に襲ってこないのは俺の装備を警戒してか?
などと思うと少し安心する。装備によって付属するスキルは違ってくるし今回は慎重型だ。索敵と回避特化の安全重視。万が一のことがあっても逃げることができる
最悪俺のスキル家でクルースさんを非難させるのもアリだ。あまり知られたくはないが僻地であるここならあまり噂が立つ危険性はないだろう
そして歩いているクルースさんが一度足を止めて俺に訊く
「ここからは一層モンスターが強くなる
気を引き締めて行けよ」
「はい!」
ここまでモンスターが襲ってくることはなかった
だがここからは違うかもしれない
俺の装備のレベルを超え得る敵が現れる可能性大だ
**********
「なんだと!!?勇者たちが国を出て行った!??
まことか!??」
声高に叫ぶ国王に家臣がこうべを垂れ報告する
獅子神を筆頭に隠密スキルを駆使できる生徒を用いて彼らは国からの脱走に成功したのだ。
「はい、国王陛下…。半数の者がなぜかギルドへ行きたいと申しており
不自由ない措置を施していたにも関わらず脱走しました…」
「ううむ…。若者ゆえの冒険心か。だが彼らはまだ実戦経験を経てないはず
なにゆえそこまで彼らを駆り立てるのか…」
国王たちには終ぞ知ることのない理由であるが
平和な日本で学生生活を送っていた彼らに必要なのは安全な生活ではなく
スリルある冒険なのだ。危険が絶えない異世界においてその住人である国王もまた理解が及ばない事例である。
原因の一つとして異世界での生活水準と食基準ともに元の世界より低く
王国最大限のもてなしも日本の庶民生活には及ばなかったのだ
娯楽施設もなく学生の身分では禁欲を強いた軟禁と変わらない
国を出ていくのも自明の理と言えるだろう
「わかりません。ただ『元の生活の方がよかった』や『娯楽が少ない』などとの不満の声も少なからずありそれが噴出したのではと思います」
「むぅ…。丁重なもてなしをしているにも関わらずつけあがりおって小僧どもが…」
品を欠き悪態を吐く国王は頭を悩ませしばし一考
「追手を出しましょうか?」
「いや」
家臣の提案を却下し次善の策を巡らせる
「よい。『今回の』勇者もハズレということだ
また次を呼び出せばよかろう。ただし次は適度のガス抜きを提供してやらんとな」
「ははっ!!」
次の勇者候補を集めるべく再び魔術師を呼びだす
これによって日本に新たな失踪者が増えていく…
異世界チート生活 俺のスキルは家で俺だけがいつでも帰れる!! 竜翔 @RYUSYOU
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