嫉妬の悪魔

華百合✿圭

第1話 剣道部

 好きな子ができた。中学2年の部長会。剣道部の人だった。剣道部は頭がいい人や生徒会の人が何人かいた。だからそういう優秀な人と比べると見劣りしているように見えた。その場にいる誰よりも暗く喋らなそうな涼しい人。

 部長長を決める話になった。向かいの席の部長が言う。面倒くさい役職なんだと。そんなことを聞いたあとでは私はやる気がしなかった。でも3人手を挙げた。驚いた。その中に弱々しく手を挙げる根暗な剣道部がいたのだ。1人づつ話す。1人目はでかい声で。2人目は先輩との約束を。3人目の剣道部は静かに立ち上がり教卓に向かった。独り言のように話す演説は誰の耳に届くわけでもなく、静かに消えた。

 投票になった。私は迷っていた。1人目はやる気が伝わってきた。仲もいい。2人目は先輩との約束を語っていた。いい話だったと思う。迷う。みんなその二人だろう。だが、気になることがあった。剣道部だ。彼女は人前に出て喋るタイプではないように見えた。なぜだろう。それだけやる気があったのか。彼女を見るとまだ緊張の余韻があるように見える。そうまでして追い求めるものなのか。彼女の目にはそう映るのか。あいにく背中しか見えなかった。

 3年生が卒業する。学年委員の私は仕事を任された。3年生にお祝いの動画だと。気が乗らないとつぶやきながら委員会後の部活に向かった。1年1組から2年4組の動画を取り、各部活の2年生から言葉をもらい編集。部活中もやることがこびりついていた。

 部活動ごとの動画を取る日になった。剣道部の時間。袴姿の紺色軍団が話し合っていた。女子しかいないのか。と話の話題を出したりして見てもよかったが残念なことに今日は仕事だった。素敵な思い出をありがとうございました。この言葉と防具の書かれた画用紙で人は泣いてしまうのだから面白い。

 2年2組の動画が回ってきた。字幕をつけている編集仲間が声が小さいと学習用端末に怒鳴っている。私が仕事をすっぽかしたせいでもあるのがなんとも怖い。機嫌取りに音量の上げ方を教え、画面を覗いた。ここでも剣道部だった。相変わらずの根暗である。少し安心した。ここでも立候補したのか、はたまた押し付けられたのか。大事な台詞をつぶやいているのだった。

 卒業式の準備。体育館だった。幕を出して画鋲で貼り付けていく。年配の先生が指揮を取っていた。私は相変わらず機嫌取り。慣れたものだ。先生の指示を走り回って伝えていた。全体を見るうちに剣道部がいることがわかった。跳び箱にのって上の画鋲を押し込んでいる。暇ができた。年配の先生が校長に呼ばれた。その間の命令は周りの人を手伝え。だった。まっすぐ剣道部のところに向かった。

 実を言うと中学で初めて合ったわけではなく。再会だった。幼稚園。いやこども園。剣道部は保育園。私は幼稚園。小学校は別。剣道部の記憶は双子。それだけ。話さないしどちらが剣道部かわからなかった。少し話したかもしれないが剣道部ではなく姉のほうだった気がする。

 緊張した。私も明るく話しかけるタイプではないし、人前で喋るのは苦手だ。私は剣道部が乗っている跳び箱を動かす役割を奇跡的につかんだ。画鋲の箱を上着のポッケに入れ両手で押す。定位置になったら画鋲を取り出し1つずつ手渡し。これの繰り返しでなんにも面白くなかった。真剣に画鋲を刺すのが剣道部じゃなければ。

 進級。新学年。クラス替え。春はやることも情報量も多い。私はいつもどうりの人たちと歩いて学校に向かった。昇降口にぶら下がる名簿で剣道部の名字を探した。正直名前はどちらかわからなかった。とりあえず名字はあった。緊張して階段をもぼり、わらにもすがる思いで手を合わせた。扉を開ける。窓側の席に下を向きつつも周りを気にするような根暗な女子が座っていた。安心というか。ため息というか。あと1年やっていける気がした。

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嫉妬の悪魔 華百合✿圭 @kei523329

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