第6話 フライトを習得
少し外が薄暗くなってきているが、完全に見えなくなるまではやろうと思う。
今度は中級魔法だ。マジブレの中級風魔法には、短時間の飛行が可能になる魔法がある。
つまり生身で空を飛べるのだ。
火属性や水属性の魔法を習得することも考えたがやめた。飛んでみたいし同じ属性の方が早く学べそうだし。
空を飛べたら色々と出来そうだ。履歴書に『特技:飛行』と書くのは無理なのが残念だが。
空中浮遊の手品として儲けるならいけるか?
さて魔法はイメージだ。なのでひとまず風のイメージを強めるために色々やってみた。
スマホで洞窟内の風の音を流してみたり、自動車で窓を開けた時の風を思い出したりだ。
後は扇風機をつけて、風に当たったりした。
どれくらい意味があるかは分からないが、やっておいて損はないと思いたい。
さて飛行魔法を唱えてみよう。
「母なる大地への抵抗を、フライト」
すると身体がフワリと浮いた。
……まあ地面から数センチ程度なので、誤差の範囲ではあるのだが。
「うーむ」
流石にこれをフライトというのはおこがましいだろう。
ただ風で空を飛ぶ、なんてイメージは思いつかない。
雲に乗ってとかなら想像つくのだが、風でどうやって空を飛べと……いや待てよ。
「……ヘリコプターとかホバーをイメージしてみるか?」
どちらも風で浮く仕組みの機械だし、魔法でも同じ原理で飛べるのでは?
そう思った俺は足に魔力を集めて、風を噴射しようとしてみると。
「うわっ!?」
ブワッと足から風が出て来て、風圧で足が持ち上げられて尻もちをついてしまった。
土の庭でよかったな。下がコンクリートだったら怪我してたかも。
足から風魔法を出すのを繰り返しやってみる。何度か尻もちをついてしまったが、地面から十センチほど浮遊する状態を保てた。
ちなみにスケートの感覚でやると安定した。スケートの経験がなかったらバランス取れなかったかも。
だがこれだとまた空を飛んでいるとは言えない。次はプロペラのイメージを浮かべてみよう、と思ったのだが。
「いや待て。プロペラって具体的にどういう仕組みで浮いてるんだ?」
プロペラで飛ぶのは知っている。だがどういう原理なのかは知らない。
なのでスマホで調べてみた。高圧と低圧とか書いてあったけど、なんとなくしか分からない。
機械だけあってかなり難しいし、こんなイメージがフワフワな状態ではダメそう。
あ、そうだ。竹とんぼならもう少し簡単なのでは?
さっそく調べてみた。竹とんぼが回転すると、風を下に流すことで上に浮くらしい。思ったより難しくなかった。
なら風を回転させて、疑似竹とんぼにすればいけるのでは?
そうして俺は身体の周囲に風を纏わせて、回転するイメージを思い浮かべてみた。
――俺の身体がフワリと浮いたかと思うと、信じられない勢いで空へと昇っていく。
「た、高すぎるだろ!?」
おそらく高層ビルくらいの十階以上の高さで、地上から二十メートルくらいは飛んでるぞ!?
ヤバイ、怖くて下が見れないぞ!?
お、落ち着け。俺は周囲に風を纏っているし、見る限り高度は落ちてない。
つまり浮いてるので風を弱めていけば、ゆっくりと高度を下げられるはず……!
慎重に、本当に慎重に魔力を弱くし続けて、俺は徐々に高度を下げていく。
そうしてなんとか地上に戻った俺は、思わず地面に転がった。
「し、死ぬかと思った……」
正直、もうフライトは使えなくていいかなと思ってしまう。
でも魔法でお金を稼ぐとするならば、フライトは金になりそうなんだよな。
俺はお金を稼ぎたい。奨学金という邪知暴虐の悪魔を打ち倒して貯金もしたいのだ。
空を飛べるというのはお金に繋がる可能性高そうだし……慎重に練習してみようか。
俺はほんの少しずつ、魔力を出して周囲に風を纏わせて回転させる。
すると俺の足が地面から離れて、少しずつ高度が上がっていく。
こ、これなら流石に怖くないな。さっきのは魔力を使い過ぎただけか。
そうして3メートルくらい浮いた後に気づいた。
これ外から丸見えでは? 周辺の家の庭が見えるのだが、つまり向こうからも俺が見えているわけで。
そう思って急いで地面に降りようとしたのだが、近くにある公園が見えた。
公園には女の人がいるのだが様子がおかしい。誰かに追われているように必死に走っている。
そんな女の人を少し後ろを三人ほど追いかけている。
顔を帽子やサングラスで隠していて、見るからに怪しい奴らだ。
「……とりあえず警察に連絡するか? いやでも勘違いだったらマズイか。でも本当だったら放置するのも……見に行くか?」
面倒ごとや危険に首を突っ込むのはゴメンだ。
ただもし本当に女の人が襲われていたら、見捨てるというのは流石に嫌すぎる。
もし後日、ニュースとかで強姦とか知ったらものすごく寝覚めが悪い。
後は今の俺は魔法が使えるのだ。いざとなれば空を飛んで逃げることも出来る。
「……よし、見に行ってみるか。俺の勘違いかもしれないし」
少し悩んだが見に行くことにした。
走っていくのでは遅いので、空を移動してみようと思う。
すると自動車より速く俺の身体が動き始めて、アッと言う間に公園に向かって行った。
―――――
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