第5話 風の弾丸


 リビングを掃除し終えた後、ため息をついた。


「やっと終わった……」


 強風を指から出せるようになったり、ステータス画面も表示できるようにはなった。

 その代償で三時間ほど掃除するハメになってしまったが。


 だがそのかいもあって綺麗になった。例えばさっきは汚れた机も、今ならばステータス表示してみれば。


【机】・・・五年ほど雑に使われた机。ようやく綺麗にしてもらえたが、持ち主が怠惰なのでまたすぐに汚れるだろう。


 こいつ俺に喧嘩売ってない? 絶対これからは綺麗に使ってやる。一週間に一度くらいは拭こう……。


【机】・・・五年ほど雑に使われた机。持ち主が覚えているうちは綺麗さを保てるだろう。だが怠惰なので近いうちに汚れるだろう。


 ……見てろよ。綺麗に保ってやるからな。

 まあいいや魔法に話を戻そう。


 両指から強い風を噴射して、部屋の中をメチャクチャにできるのは凄いと思う。

 なお攻撃力はない。これだと手品みたいなものだな。


 だが魔力を感じて風にできるならば、やはり『ヒールウインド』以外のゲーム魔法も使えるのではなかろうか。

 ということで風魔法初級の『ウインドバレット』を使えるか試そうと思う。

 

 そういうわけで俺は家の庭に出た。

 流石にこれ以上部屋をメチャクチャにしたくはない。


 庭は和風で広くて木や大きな岩も置いてある。

 練習場所になるのはラッキーだ。外で魔法の練習をして他人に見られたら痛々しいからな……。


 とりあえず庭に生えている木に目掛けて、ウインドバレットの練習をしようと思う。太さは人の腕くらいだから折れはしないだろう。


 ……ステータスを信じるなら知力が高くて、凄まじい威力にならないかが少し不安だが。

 もし万が一があったら空にでも打ち出すことにしよう。


 ゲーム内の詠唱を思い出しつつ唱えてみる。


「ええと。打ちのめす風の弾丸よ、ウインドバレット!」

 

 俺は魔法を唱えた。だがなにも起きなかった。

 だが数撃てば発動するかもしれない。ほら自転車だって最初は乗れなかったけど、何度もやっていればいずれ乗れるようになるし。


「打ちのめす風の弾丸よ、ウインドバレット。打ちのめす風の弾丸よ、ウインドバレット! 打ちのめす風の弾丸よ、ウインドバレット!!!」


 出ないな。ヒールウインドは練習しなくても発動したのに。

 ……いやむしろヒールウインドが使えたのがおかしいだけか。魔法を簡単に習得できるわけがない。


 ここは落ち着いて考えてみよう。なんで俺はヒールウインドは簡単に使えるのに、ウインドバレットは使えないのか。


「……もしかしてヒールウインドで回復したことがあるからか?」


 俺は夢? でヒールウインドで回復したことがある。

 いや今となってはあれが夢ではないと思う。現実だったのだろう。

 

 ともかく魔法がイメージであるというならば、受けたことがあるというのは大きいと思う。

 成功体験を知っていればイメージしやすいに決まってるのだから。


 つまりウインドバレットを受けることができれば、使えるようになるのではないか。まあ問題はウインドバレットを受ける方法がないことだが。


「うーん……あ、そういえばウインドバレットって、ようは空気砲みたいなものだよな」


 空気砲は某青い猫型ロボットの主武装で、空気の塊を打ち出す武器だ。

 原理だけなら段ボール箱で勘単に再現できると聞いたことがある。


 なら試しに作ってみたら、ウインドバレットに近いイメージを掴めるのではないだろうか。


 そう思って俺はリビングに入って、取り置きの段ボール箱を手に取る。さっそくフタなどをガムテープでとめて空気が逃げないようにする。


 そして一か所にカッターで穴を開けると、アッと言う間に空気砲の完成だ。

 試しにポンと段ボールの両側面を叩いてみると、空気がブワッと出てきた。


「あー、なるほど。空気を勢いよく発射するってこういうことか」


 さっきまでに比べて空気の塊を打ち出す、というイメージがつくようになった気がする。

 

 俺はまた庭へと出て、手を木に対して向けた。

 今の段ボール空気砲を思い浮かべながら、魔力を指先へと運んでいく。


「打ちのめす風の弾丸よ、ウインドバレット」


 すると指から出た風が集まっていき空気の塊になっていく。

 なっていくのだが……どんどん大きくなって、俺の全長よりも大きい球体になってしまった!?


 ちょっと待て!? これそのまま撃ったらヤバイのでは!?

 俺は慌てて手を上げると同時に、空気の砲弾は空高く飛んでいく。


 そして周囲にあった雲を吹き散らしてしまった。

 ああ、青空が綺麗だ……これ地上で撃ったら大惨事だったな!?


 マジブレのウインドバレットは、銃弾くらいの空気弾を打ち出す初級魔法だ。

 本来ならこんなに強いはずがないのだが、やはり俺の知力の高さが影響しているのだろうか。


 ……とりあえず威力を弱める感じで試してみるか。


「打ちのめす風の弾丸よ、ウインドバレット」


 今度はほとんど魔力を出さずに、小さな小さな弾丸を作るイメージで魔法を唱える。

 すると右手の人差し指付近に銃の弾丸くらいの風の塊が作られた。


 今度は大丈夫そうなので木に向けて発射する。

 すると直撃した木は大きく揺れて、木枝や葉がいくつも地面に落ちた。さらに木の幹には弾痕のような跡が残っている。


 これくらいなら使い道もありそうだ。最初のは威力が高すぎて、使える場所が思いつかないしな。


 さらに何発かウインドバレットを木に打ち込む。すると木にどんどん小さな穴が開いていく。


「よしよし、威力を押さえて撃つのはいけそうだな。それにしても魔法はイメージか……」


 なんとなく魔法を掴めてる気がするので、もう少し練習をしようかな。

 次はもう他の魔法にしよう。


 次も風魔法。だいたいの人が一度は使ってみたいと思うやつだ。



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