第7話 不審者を吹き飛ばせ
俺は風魔法で空を飛んで、自宅の庭から公園の上空へと移動した。
誰かが見てたらヤバイなあ。緊急事態だから仕方ないし見られてませんように。
するとさっき逃げていた女の人は、三人の不審者に囲まれて逃げ場を失っていた。
よく見ればそのうちのひとりは包丁を持っている。
いやアレは流石にアウトだろ。身内の喧嘩とかで済む話じゃない。
「なんで僕たちを無視するんですか? ねえ? 俺たちは貴方の一番のファンなんですよ? ずっと追いかけてきたのにあんまりじゃないですか?」
「む、無視したわけでは……」
「無視しましたよね? ライブで手を振ったのに見てくれませんでしたよね? 俺たちは初期からのファンですよ? それは裏切りじゃないですか?」
三人のうちのひとりが包丁を突き出して、女の人を脅している。
話の内容もなんか逆恨みっぽい感じが凄い。
ステータスを見たいと願うと表示はされたのだが。
『不審者』
レベル:1
MP:0
攻撃力:1(+3)
防御力:1
魔力:0
スキル:怨恨
【怨恨】・・・恨んだ相手に対して攻撃力が上昇する代わりに、理性が著しく低下する。正当な恨みでなくとも発動する。
顔を隠されているせいか名前は表示されない。
しかし絶対ヤバイ奴らじゃん。他の二人も【怨恨】スキル持ってるし……関わりたくないなあ。
でも女の人を見捨てられるほど俺はドライじゃないんだ。そっちも罪悪感がヤバイ。
それにあいつらは銃なんかも持ってないから、空を飛んでいる俺には何もできない。ここが日本でよかったな。
まあベルセリオンの防御力があるなら、銃弾を受けても死なないかもしれないが。
流石に試すの怖いし、そもそも銃が手に入らないからやれないけど。
……よし助けよう。
俺は地上から十メートルくらい浮いてるから、奴らはまだ気づいてもいないし。
空から警察を呼ぶぞーと叫ぶのは微妙だ。包丁を持ち出すような奴らだし、追い詰められたら何をするか分からない。
コッソリ警察を呼ぶのも考えたが、すでに包丁を突き付けられてる状態だと間に合わない可能性も高い。
ならあいつらを吹き飛ばして、女の人の安全を確保したほうがいいはずだ!
「打ちのめす風の弾丸よ、ウインドバレット」
少し小さな声で魔法を唱えて、不審者たちに向けてかなり弱めた風の弾丸を三発を打ち出した。
全力で撃ったらヤバイことになりそうだからな。
全弾直撃して三人まとめて軽く吹っ飛ぶ。
「い、いってええええ!?」
「ぐおおおおぉぉぉぉ!? 腕がああああ!」
「な、なんなんだいったい!?」
三人とも地面に倒れてもだえ苦しんでいる。
ただ出血などはしてなさそうなので、もう何発か打ち出しても大丈夫そうだな。
俺はさらにウインドバレットを乱れ撃つことにした。
「打ちのめす風の弾丸よ、ウインドバレット」
「ぐえええええ!? ななな、なんなんだよこれはあ!?」
「ごぼお!? なにが当たってるんだよ!?」
「ぎやああああああ!?」
三人の男たちは風の弾丸に当たる度に吹き飛ぶ、地面をゴロゴロと転がっていく。
「え? え?」
そして呆然と立ちつくす女の人。
まあこの状況だと不審者がバカやってるようにしか見えないもんな。
「!? そ、空に誰かいるぞ!?」
「と、飛んでる!? どうやってだよ!?」
「ほ、包丁だ! 包丁を投げて……!」
とうとう不審者たちは俺に気づいてしまった。
どうせなら気づかれずに終わりたかったが無理だったか。
あと包丁を投げても無意味だぞ。飛んでいる相手に当てられるわけないだろ。
「打ちのめす風の弾丸よ、ウインドバレット!」
もう小声の意味もないので、魔法を叫んで発動する。
また風の弾丸が不審者たちに襲い掛かり、彼らの身体を地面に転がす。
「う、ウインドバレット!? マジブレの魔法じゃないか!?」
「そんなバカなことあるかよ!? エアガンとかを隠して撃ってるんだろ!?」
「エアガンを人に向けるなんてダメだろ!? に、逃げろぉ!?」
不審者たちは悲鳴をあげながら逃げていく。
包丁を人に向けてたくせに、エアガンはダメなんてなにを言ってるんだよ……。
不審者たちは必死に走って逃げ続けていて、すでに公園からかなり離れている。
これならもう戻っては来ないだろ。
本当なら捕えたいところだが、今の俺だとあいつらを動けなくする手加減が難しい。
下手にウインドバレットを撃つと殺してしまうかもしれないし、追い払っただけでよしとするしかないか。
俺は地面に降りて女の人の側まで駆け寄る。
よそ行きっぽいワンピースを着た綺麗な女性だ。年齢は二十くらいだろうか。
肩くらいまで伸ばした黒髪にパーマを当てていて、オシャレに気にしているのが分かる。
ただスカートの一部が破れて、むき出しの膝から出血している。たぶん逃げる時に転んだりしたのかな。
かなり痛そうだし治しておいたほうがよさそうだ。
「癒しの風よ、ヒールウインド」
回復魔法を唱えると女の人の膝が輝く。そして傷が綺麗さっぱり消え去った。
やはり回復魔法は他人にも使えるようだ。これで使えなかったら俺が痛々しかったな。
「え、ええ!? 怪我が!?」
「他にもなにかありますか? 体調が悪いとか」
「い、いえ大丈夫です……コホッ」
女の人は恐る恐るといった様子で俺を見て来る。
少し声が出しづらそうだけど風邪なのだろうか。しかし、どこかで聞いたことのある声な気がする。
……いや待て。この人、声優の紅水エリカに似てないか?
そう思った瞬間、彼女の周りにステータスが表示された。
『紅水エリカ』
レベル:1
MP:0
攻撃力:1
防御力:1
魔力:0
スキル:なし
……マジで? 本当に本物の紅水エリカなのか!?
「あ、あの。ウインドバレットにヒールウインドって……」
信じられないが顔も似ているし、なによりも声がソックリなのだ。
そんな紅水エリカさんは怯えながら俺の顔を伺っている。
……ところで今の俺ってさ。客観的に見たらかなりヤバくないか?
マジブレの魔法を連呼して空から降りてきた不審者では?
…………ダメ元で全部なかったことに誤魔化してみるか!
「聞き間違いではないでしょうか? 私はなにもしてませんよ」
「え? でもあの人たちが吹き飛んだりして……」
「勝手にジャンプして吹き飛んだだけでは?」
「こほっ。空を飛んだり怪我を治して……」
「人が空を飛べるわけないじゃないですか。幻覚ですよ。それに最初から怪我なんてしてませんでしたよ?」
不審者たちが勝手にぶっ飛んで、後は全部錯覚だったことにしよう。
大丈夫だ。魔法なんてあり得ないのだから、今の状況だけ見ればそれでゴリ押せる!
本当なら警察を呼びたいところだが、そこで取り調べとか受けたら困るからな!?
魔法で不審者を撃退しました、なんて誰も信じないに決まってる!
「そ、そんなはずは……!」
「おっといけない! 用事があるんでした! 襲われたことは事実なので警察を呼んでおいた方がいいですよ! それでは失礼します!」
「え、ちょっと待って……コホッコホッ……」
俺はこれ以上ボロを出す前に、脱兎のごとく走って公園から逃げ出した。
危ない危ない。魔法が使えるだなんて知れ渡ったら絶対に面倒なことになる。
……本物の紅水エリカならサインもらいたかったけど、流石にこの状況ではお願いできないし。
俺も不審者に見られてる可能性もあるし、助けたのを盾にサインもらったらクズっぽいしな。
ところでエリカさん、妙に声を出しづらそうだったけど大丈夫だろうか。
ヒールウインドは怪我の治療の効果しかないから、風邪とかは治らないし。
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
三人の不審者たちは逃げ散った後、他の公園で再度合流して話をしていた。
「なんなんだよあいつは! 俺たちをバカにしやがって!」
「マジブレの魔法なんて使えるわけないのによ! 俺たちがエリカたんと仲良くするのを邪魔してるだけだろ! これだから厄介勢は!」
彼らは自分たちの犯行に対して全く罪の意識はなかった。
彼らの中では襲った少女は自分と付き合っていて、相思相愛の関係だから問題ないと考えている。
「どうする? エリカたんに悪い虫がついたら困るぞ」
「少し脅すくらいはしたほうがいいな。エリカたんのためにも」
「とりあえずあの男の自宅を特定するところからだな。そうすれば後はどうとでもなる」
―――――
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