第2話 骨折を回復魔法で治す
光が消えた後、足に感触が戻った。
試しにと足を動かそうとしてみると、なんと普通に動いてしまった。
え? もしかして今のって……ゲームの回復魔法が使えたのか!?
い、いったいどういうことなんだこれは!?
とても信じられない。だが先ほどと比べて明らかに足の感触があるのは、否定しようのない事実だ。
もう一度両足を動かしてみると思い通りに動く。慎重に足を軽く上げても問題ない。
ギブスはかなり重いので骨折した状態で足が上がるとは思えない。
「……これ、もう歩けるんじゃないか?」
ベッドから身体を起こして、恐る恐る床に足をつけてみる。ギブスは足の先まで巻かれているので靴は履けない。
普通に床に足をつけれたし痛くもない。
ゆっくりと歩いてみるがそれでも痛みはなく、怪我する前と同じように歩けてしまっている。
とても信じられない。だが頬をつねっても痛い。足は痛くないのに。
「…………完治してるじゃん。嘘だろ!?」
すると部屋の扉がノックされた。
「高梨さん。入ってもいいでしょうか?」
「はい! 大丈夫です!」
テンションが上がっていたため、妙に明るい返事になってしまった。
すると扉が開いて医者の先生が入ってきた。彼は俺が立っている姿をジッと見た後に。
「あ、すみません。部屋を間違えました」
と言い残して出て行った。
そうしてしばらくしてから、またゆっくりと扉が開かれて先生が戻って来ると。
「たっ、たっ、高梨さん!? なんで立っているのですか!? 安静にしてください!? ほらベッドに寝て! 早く!」
先生は声を裏返しながら、俺を支えてベッドに寝かせてしまった。
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(はあ、気が重い。患者に絶望的なことを言うのは、いつになっても慣れませんね……)
医師は少し暗い顔で病室の前にやってきた。
病室の札には『高梨』と記載されている。
(まだ若いのに下半身不随。もう両足が動かないので、ずっと車いす生活と伝えなければならないとは)
優希は奇跡的に心臓が動き出して復活した。
だが彼の両足はもう死んでいる。リハビリをしたら少しは動くかもしれないが、普通に立っての日常生活はもう不可能だ。
(彼も信号無視などしていたならまだしも、歩道にトラックに突っ込まれたのでは回避も難しい。なんとも酷い話です)
だが患者に伝えないわけにもいかず、医師は意を決して扉をノックする。
(彼もある程度は気づいてるのではなかろうか。両足の感覚がなくなっていることに。それならば暗い声での返事が返って来るはず……)
「はい! 大丈夫です!」
だが医師の予想に反して優希の声は明るかった。
(ものすごく明るい返事だ。全く気づいていないと……なんて言いづらいのでしょうか。だが言わないわけにもいきませんし)
医師は扉を開いた。彼はベッドで寝ている半身不随の患者に、現実を告げに来たのだ。
――だが病室にいたのは、自分の両足で立っている男だった。
「あ、すみません。部屋を間違えました」
医師は慌てて部屋を出て、貼ってある入室患者の札を確認する。
だが彼が何度見直しても『高梨』という名前でしかない。
(??? か、看護師が札を張り間違えたのでしょうか? いやでもさっきのは高梨さんだったはず……両足にギブスをつけてたし……)
医師は近くにいた看護師に声をかけた。
「すみません。高梨という患者の人は、いまこの病院に複数入院していますか?」
「いないはずですね。いたら姓だけじゃなくて下の名前も書いてますし」
「……ですよね。高梨さんは半身不随の人でしたよね?」
「そうですよ。先生が担当している人じゃないですか」
医師は自分の記憶間違いでないことを確認した後。深呼吸をしてから扉を開いて中に入る。
するとそこにいたのは、両足ギブス姿で軽くジャンプしている優希であった。
「たっ、たっ、高梨さん!? なんで立っているのですか!? 安静にしてください!? ほらベッドに寝て! 早く!」
医師は意味不明ながらも慌てて優希をベッドに寝かせた。
そして急いで診療室に向かうと、パソコンを起動して優希の電子カルテを確認する。
だがカルテやレントゲン写真を確認しても、優希は間違いなく下半身不随の症状であった。
そもそも下半身不随に関係なく、両足を複雑骨折しているので立てるはずがない。
その事実が医師をひたすらに困惑させている。
(ば、馬鹿な!? レントゲンの故障か!? いやそうに決まってる! あり得ないのだ! あり得てたまるものか!! こんなのがありえたら世界中の医学がひっくり返るぞ!?)
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