現実とゲーム世界を行き来できる俺、スキルと魔法で二つの世界を無双する ~日本でゲームの魔法を使えたら人生逆転しました~

純クロン

第1話 ゲーム世界に転生キャンセル


 俺は高梨優希、しがない大学二年生だ。


 そんな俺は大学の帰り道に、就活の憂鬱さにため息をついていた。


「どの業界も数年後にどうなってるか分からないからなあ……」


 将来のことを考えると不安ばかりが募る。

 少し前まで安泰だった職業が、今では追い詰められているなんて日常茶飯事らしい。


 例えばプログラマーは仕事がなくなると言われている。

 AIがすでに簡単なプログラムを組めるようになっていて、そのうちプログラマーは不要になるそうだ。


 転職前提の世の中だからスキルをつけなければならない。だが今は有用なスキルでも、少し先では不要になっているかもしれない。


 俺は奨学金を借りて大学に通っている。つまり多額の借金持ちなので、就職に失敗したらと思うと恐ろしい。


 なのでいい給料の会社に入って稼がなければならない。だがそういった会社はだいたい残業が多い。


 求人で月給が高めでいいなと思ったら、固定残業代5万円込みとかで真顔になったりする。

 残業なしでそれなりの給料の仕事って、ゲームのレア素材よりレアだよね……しかもみんな群がるから就職難しいし。


 お金が欲しいなあ……お金持ちになりたい。

 早めに稼ぎ切ってFireってのをよく聞くけど少し憧れる。流石にリスクが高すぎるから怖くて出来ないけど。


 給料が低いが残業のない会社に入って、副業で稼ぐ方が利口なのかもしれない。

 副業で稼げるスキル? そんなものはない。


「……ひとまず帰ってマジブレでもプレイするか」


 ファンタジア・マジックブレイド。通称マジブレ。

 日本の誇る有名ファンタジーRPGで、国内で知らない人間はいないと言われている人気作だ。


 俺はマジブレにあまりに熱中しすぎた結果、大学の課題の提出がギリギリになったことが何回かあった。


 なんで大学の課題や試験と、稼ぎ効率のいいイベントやレイドって重なるんだろうな。

 アルバイトで稼いだ月給をほぼ全額課金に費やしたこともある。


 そうして育てきったキャラ――名は『ベルセリオン』――はレベルカンストでチートな強さを持つ。

 見た目は漆黒のローブを身にまとい、銀髪を腰まで伸ばした男性キャラだ。


 強力な魔法使いであり、あらゆる魔法を覚えさせている自慢のキャラ。


 そんなことを考えているとこちらに走って来るトラックが見えた。

 だが妙に蛇行運転していておかしい。どう見てもまともな運転じゃない。


「ちょっ!? えっ……」


 嫌な予感がした時にはもう遅く、トラックは俺に突っ込んできていた。

 


 


^^^^^^^^^^^^^^^^^^^




 目覚めると床に大きな魔法陣の書かれた、大きな祭壇の部屋にいた。


 俺はこの祭壇を知っている。ファンタジア・マジックブレイドでゲームを再開する時、キャラクターの初期位置になる祭壇だ。


 しかも壁にはファンタジア・マジックブレイドで出て来る国旗が飾られている。あのドラゴンの国旗は見間違えるはずがない。


 自分の姿を見ると漆黒のローブを身にまとい、銀髪が腰まで伸びていた。

 どう見てもベルセリオンの姿に俺は思わず困惑してしまう。


「な、なんで俺はベルセリオンの姿になっているんだ!? というかここはどこだよ!?」


 慌てて祭壇の部屋の外に出る。

 すると外には草原とともに、信じられない光景が広がっていた。


 そこらに巨大なドラゴンや、大きな鬼であるオーガなどの魔物が歩いているのだ。

 どれも全てマジブレで出現する魔物だった。


「ど、どうなって……なっ!?」


 するとオーガの一体がこちらに気づき、俺に襲い掛かって来た。

 あれはギガントオーガ。オーガ種の中で最強の魔物だ。


 ギガントオーガは丸太のように太い腕で、俺に殴りかかってくる。俺は咄嗟に腕でガードして受け止めた。


 俺の腕はオーガの腕に比べれば貧弱だが、見事にオーガの拳を受け止めた。

 そして自然と口が動いていた。


「死神の風よ、内なる魂を切り刻め。サーキュラス・ウインドレイス!」


 突如、ギガントオーガを包み込むように漆黒の竜巻が出現する。

 あ、あの魔法はマジブレの『サーキュラス・ウインドレイス』だ。


 何故か分からないが俺は魔法の使い方が分かる。

 まるで手を動かすのに理屈がいらないかのように、数多くの魔法を使えるという確信があった。


 そして事実、使えたのだ。

 ギガントオーガは竜巻に包み込まれてすぐに、糸が切れたかのように倒れて動かなくなった。


 やつの身体にはキズ一つないが、息をしていないので死んだように思える。


 ふと自分の両腕が痛む。どうやらさっきのオーガの攻撃を防いだ時に、少しだけダメージを受けてしまったようだ。

 

「癒しの風よ、《ヒールウインド》」


 暖かな風が吹いたと同時に、俺の腕の痛みが完全に消える。

 ふと周囲を見回すがやはり草原には魔物が跋扈していた。


 今の状況を鑑みると……俺はベルセリオンの身体を得て、マジブレの世界に転生したのではなかろうか?

 信じられないが痛みもあるしそう思うしかない。


「いったいどうなって……え? なんか俺の身体、透けてない?」


 見れば俺の身体が透明になって、どんどん薄くなっていく。

 まるでこの世界への存在を許されないように、消え始めているのだ。


「え、いったいどういう……世界樹に吹き荒れる嵐よ、奇跡なる癒しを運べ。リザレクション・テンペスト!」


 最上級回復魔法を唱えると、俺を包むように七色の竜巻が巻き起こった。

 この魔法は死亡以外の全ての状態異常を治癒し、体力も完全回復する。


 だが無意味だった。

 俺の身体はどんどん薄くなっていき……それと共に気が遠くなって……。




^^^^^^^^^^^^^^^^^^^




 目覚めたら俺はベッドに寝ていた。

 どうやら病室っぽいのでトラックに轢かれて、病院に運び込まれたのだろうか。


 さっきは夢か。そりゃそうだよな、マジブレの世界に転生みたいなことあるわけないし。


 そう思いながら起き上がろうとするのだが足が動かない。

 よく見れば両足全体に大きなギブスがつけられている。


「高梨さん、おはようございます。動かないでください。ひとまず安静に」


 声の方を見ると医者らしき男の人が、俺の側に立っていた。

 医者の先生は気の毒そうに俺を見つめた後。


「高梨優也さん。落ち着いて聞いてください。貴方はトラックに轢かれて、少し心臓が止まっていました。奇跡的に蘇ったのです。ですが長期間の入院が必要です」


 ……あのまま夢を見ていたかったかもしれない。

 そうして俺は入院することになった。


 両足の骨が折れているからな。治るまで二カ月以上はかかるだろうし。

 なので俺は病室のベッドで携帯ゲームをプレイしていた。


 もちろんプレイするのは『ファンタジア・マジックブレイド』だ。

 スマホでもプレイ可能なので助かった。


 ファンタジア・マジックブレイドはファンタジー系のRPGだ。勇者となった主人公が仲間を集めて魔王を倒す王道のゲームである。


 ……そういやさっきの夢? ではマジブレの世界に一瞬だけ転生したな。

 俺はベルセリオンの姿になっていて、それで癒しの魔法をかけられたんだった。


 自分の両足を軽く動かそうとしてみるが、まったく微動だにもしない。骨折したらこんなに動かないものなのか?


 まるで両足がなくなったかのように感覚がないのだが……いや気のせいだろう。うん、気のせいに決まっている。


 ゲーム内のキャラが瀕死になったので、《ヒールウインド》を使って回復する。

 そういえば夢での俺? も使ってたなあ、回復魔法。


「いいよなあ。俺も『ヒールウインド』が使えたらなあ」


 思わず口に出した瞬間、なにかが俺の身体の中を蠢くような感覚が走った。

 そしてギブスに包まれた俺の両足が輝き始めた!?


「!? な、なんだ!?」


 思わず立ち上がろうとするが両足は動いてくれない、だが温かい感触が戻っていく。しばらくすると光が消えた。

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