第3話 風魔法


 俺は足が治ったので退院することになった。


 最近の病室は空きがないというし、病人でもない俺がベッドを占有してはダメだろう。


 医師の先生はひたすらに困惑していた。あの人はレントゲンを確認したり、俺がギブスを外して走る姿を見せたら「じ、人体の奇跡だ……」と言ってたな。


 回復魔法で治った可能性が高いのだが、流石に本当のことを言う気にはなれなかった。だってこうなるだろうから。

 

「実はゲームの魔法で回復したんです」

「足の代わりに頭が……」


 いや医師の先生が直接言ってはこないだろうが、頭が疑われる可能性はある。それなら奇跡的に治ったの方がいいだろう。


 そうして俺は自宅に戻ってきた。いま住んでいるのはすでに他界した祖父の家で、大阪で一人暮らしをしている。


 たまたま祖父の家が大学に近かったので住んでいる形だ。

 父と母は名古屋の実家に住んでいて、この家は俺ひとりで住むには少し広い。


 ちなみに両親は新幹線に乗って来てくれた形になる。心配かけてしまったな。


「さてと。じゃあ色々試してみますか」


 自宅に帰ってきた次の日の朝。

 俺はリビングの椅子に座り込んだ。


 今からやろうとしているのは、本当に回復魔法がどれくらい使えるのかだ。


 両足骨折を治したので魔法が使えてるのは間違いないが、それが何回ほど使用可能なのかなどは試しておきたい。

 後は他の魔法も使えたらいいなぁ、という願望もある。


 この治癒魔法をうまく使えば金を稼げるのではと踏んでいる。奨学金を返すばかりかFireも可能かもしれないし。


 とりあえず口内炎ができていてちょっと痛むので治したい。なかなか治りづらいし。


 さて肝心の魔法の使い方だが、理由はわからないがなんとなくわかる。

 まるで手足を動かしたりつばを飲み込む方法を、理屈は分からなくても出来るみたいに。


「ええと、こんな感じかな。癒しの風よ、ヒールウインド」


 呪文を唱えると口付近が少し光ったかと思うと、口内炎の痛みが消えていた。

 あ、これ治ってるっぽい。


 やはり俺がヒールウインドを使えるのは確定だな。

 他の夢で使っていた魔法、『リザレクション・テンペスト』や『サーキュラス・ウインドレイス』も使えそうな感覚はある。


 ただここでは試せないが。もう口内炎などはないし、サーキュラスに関しては即死魔法なので物騒過ぎる。


 まあいい。ここまではなんとなく予想がついていたことで、ここからが本番だ。


 俺は近くに置いていたゲーム機を手に取り、マジブレを起動する。

 すると『ファンタジア・マジックブレイド!』と、キャラによるタイトルコールが叫ばれる。


 ちなみにこのゲームは完全フルボイスだ。キャラひとりひとりに声優がついている。

 特に主要キャラは有名声優ばかりで、マジブレライブとかもやっていたりする。


 俺はマジブレをプレイし始めて。魔法キャラのステータス画面を表示する。

 

 するとマジブレの多種多様な魔法が次々と表示されていく。

 ヒールウインドはマジブレの魔法である。それが使えると言うことはだ。


 ――他のゲーム魔法も使えるのではなかろうか。


 例えば風魔法の『ウインドバレット』。指から風の弾丸を打ち出す初級魔法だ。

 なんともカッコイイ魔法だし使えたら楽しそう。


「ええと。たしかゲーム内に魔法の基礎が書いてある本があったはず……」


 RPG系作品でよくあるやつだが、本棚に細かい設定が記載されている。

 その中にマジブレの魔法の仕組みが記載されていたはずだ。


 俺が使いたいのはゲームの魔法なので、有用な情報が載っているかもしれない。


 うろ覚えでゲームキャラを動かして、町の民家に次々と入って本棚を調べていく。

 いくつか本棚を調べると『魔法はイメージだ。体内にある魔力を外に出して、物質や属性に変えるのが必要だ』と書かれてある。


「なんとなく、魔力を外に出すというのは分かる気がするな」


 トラックに轢かれてから変わったことがある。

 身体の中を循環しているがあり、それがヒールウインドを使った時に身体の外に出ているのが分かることだ。


 ここからは完全に仮説なのだが、そのナニカは魔力だと考えている。

 そして体内に循環していることは、魔力は血液に混ざっているのではなかろうか。


 だって身体中を駆け巡っているのは血液だし。

 なので体内の魔力を血管に載せて、指の先に送り出す感覚を作ってみることにした。


 そしてその魔力を風として放出するように考える。

 

 その瞬間だった。


 ――ブオオオオオォォォォォォォ!!!


 指から出た風があまりにも強すぎて、轟音と共にリビングが嵐に襲われた。


「ちょっ!? 止まれっ!? 止まって!?」


 必死に願うとなんとか風は止まった。


 だがリビングのカーテンがめくれたり、テーブルの上に置いてあったコップが床に落ちて割れていたりと悲惨な状況だ。


 まるで台風が通り過ぎた後みたいになってしまった。

 

「しまった……外でやってればよかった……」


 仕方なくリビングを片付けながらも、俺は内心で気になっていた。

 これならゲームの魔法を色々使えるんじゃないだろうか。ヒールウインド以外にも、と。


 そういえばマジブレだと魔法を使うとMPが消費されるけど、ヒールウインドって消費MPっていくらだったっけ。


 ゲームならステータス画面を開けば、すぐに確認できるのだが。そう思った瞬間だった。


 ――ゲーム画面を切り抜いたようなスクリーンが俺の周囲に出現した。


 

-----------------------------------

少しでも続きが気になりましたら♡や☆、フォローをもらえると嬉しいです!

(☆は画面下部の『☆で称える』のところで出来ます!)

ランキングが上昇して執筆モチベが上がります!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る