第5話 ハーブティ

木曜日。

 夫と息子が今日も1日頑張れる様にと朝からハーブティーを淹れる。

「おはよう父さん母さん。」

「おはよう〜」

「おはよう。」


 温めたティーポットから一旦お湯をカップにうつし、薬草と魔力草を入れ100度のお湯を注ぐ。キルティングで自作したポットカバーを被せて1分蒸らしたら、カップのお湯を捨てそこにハーブティーを注ぐ。

 

「今日はハーブティーにしてみたの」

夫には魔力なんて無いだろうけど、どうも魔力草は精神安定効果がある様に思えるのだ。紅茶みたいな綺麗な色も出る。

 

「ふーん。」とスマホ片手に息子。物凄く早い手つきで操作していたので、朝食プレートを置くフリしてこっそり覗いてみた。

 "母親が朝から突然ハーブティーとか淹れ始めたんだけどどういう心境だと思う?"

 という誰かに宛てたメッセージ。横に既読の文字が今付いた。私はそっと目を逸らし、返信が目に入らない様に離れる。

親に友達とのやり取りを覗かれるのは私なら嫌だ。私は人の嫌がる事はしない。

「スッキリした味だね。美味しいよ。」

 夫はにこりと笑う。

夫はだいたい何でも美味しいって言ってくれるから実のところどう思ってるかは分からない。けれど妻を気遣ってマメに言葉かけるのは、世間ではなかなかできない事らしい。こういう所を息子は将来のためにも見習ってほしい。

夫婦円満の秘訣だと思う。

 

本日は綺麗になった庭にてガーデニングである。アイテムボックスから取り出しましたるはこれ!

 

 聖域の土 聖なる力が宿った栄養豊富な土

      植物の成長を助ける

 

家の庭の一角を聖域の石で囲み、その内側を耕し聖域の土を混ぜていく。ハーブティーで使わなかった部分、薬草と魔力草の茎と根を株分けしつつ等間隔に植えていった。

 

これで増えてくれると良いな〜

 と期待して鑑定すると、なんと聖域の石で囲んだ所が結界になっていたので慌てて石を収納し、土魔法で柵を作った。

 何個も作っていると上手くなる筈が、何故か魔法が発動しづらくなって来た。ステータスを確認してみたら、異世界の聖域ではいくらでも魔法が使えたのにこちらではMPが減るらしい。

ちなみに土魔法は土魔法でしかなく、特別な名前が付いているわけではない。しかも作るものによってMPの減り方はアバウトらしいのだ。


 私は急いでキッチンに戻り、氷をいっぱいに入れた水筒に魔力草ハーブティーを濃い目に淹れて、それを飲みながら作業する事にした。

「うーん冷やしても美味しい!」

 魔力草だけのハーブティーだと体の疲れまでは取れないけれど、何だか気分は落ち着く。やはりブレンドした方が良い様な気がする。

 

 いつか異世界に行けなくなった時のために薬草も魔力草も家でたくさん増やしておきたい……!

 庭いじりが済んだら、薬草と魔力草をブレンドして、ヤカンに沸かして冷ました。後でいつでも飲めるように冷蔵庫とアイテムボックスの両方にストックしよう。

 

次は部屋中のものを収納して浄化!浄化!浄化の連発だ。スキルはMPが減らない!この地球でも使い放題だ。

引き出しの中のホコリも浄化!

 「汚物は消毒よぉ!」


 このセリフをふざけて言う人は多いが、私も自然に口に出していた。モヒカンの気持ちの一端を知った。私はその後も家中狂った様に浄化した。

 

「いや、主婦が浄化覚えたら絶対こうなると思うよ。」


そしてアイテムボックスから物をあるべき場所に戻ーす!

 息子の部屋の物はなるべく触らない様に、アイテムボックスを使ってゴミだけを回収してこっそり浄化した。年頃の男子は親、とりわけ母親がうっかり物の配置を変えようものなら烈火の如く怒るからだ。

 

私だって本当はなるべく嫌われる事はしたくない。触られたくなかったら自分で掃除しろなんて正論をガミガミ言いたくは無いのだ。だけど見てしまったらこの部屋をこのままにする訳にはいかない。

 もし万が一黒いアイツがやって来たらどうする?!アイツは埃さえ餌としてどこでも生きられてどこでも増えられるんだ。触られたく無ければ、せめて常に掃除機をかけられる状態にして欲しいのだ。

 私は家事の中では掃除は大嫌いだ。何故なら、たとえ家族であれ人の物を触ったり捨てたり置き場を変えたりしたくないのだ。自分の物を勝手に触られるなんて私が一番して欲しくない事だから、なるべくなら本人にやってもらいたい。それなのに使用者が部屋の掃除をしないから仕方なく代わりにやっている。それで案の定疎まれてなんて理不尽なのだろうか。


でも!そんな悩みも今日までだ。これからは掃除機をかけなくて良いから、配置を変えずに掃除ができて、掃除をしたのに怒られるという煩わしい思いをせずに済む。

 

そんなこんなで1日は過ぎ、

「掃除頑張ったんだねー。ありがとうね。」

と夫がニッコリ。

息子は変な顔して首を傾げて訝しそうにこっち見た。

 

 これは…完全にバレている。考えてみたら床もテーブルも明らかに綺麗になっているのに部屋の物の配置が全く動いてないのはある意味怖いかも知れない。

 

それから、ちょっと古いマアジを焼いて3人で食べた。

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