第2話 不審者じゃん

 私はキッチンで冷たいお茶を飲んで少し休んでから、大きめリュックに財布とスマホとショッピングバッグを詰めて帽子をかぶり自転車でスーパーへ。

結婚した時は駅の近くのアパートに住んでいたので、駐車場や維持費の関係で私個人の車は手放した。当時は全く不便が無かったけれど、引っ越して夫の職場から遠くなってしまい夫がマイカー通勤になった為、私の移動手段はこのママチャリしかない。


 一番近いスーパーでも自転車で片道25分。帰りは前カゴとリュックに荷物を詰めて帰っても大人3人の3日分のストックにしかならない。この時期は特に無料の氷も入れるのでその分重くて地味につらい。

 

 汗だくで息切れしながらスーパーに到着。メモを見ながら手早く買い物カゴに入れていく。魚売り場でアジ100円!と大きく書かれたポップを見つけて走り寄る。

「やっす……!」

小さくてあまり新鮮じゃないけどかなり安い。

最近アジを見ても1尾300円したりして、家族3人なら900円もするからしばらく食べていなかったけれど、アジは私の好物だ。

今日はアジの塩焼きにしよう。

「小さいから1人2尾必要だね……。」

イマイチな中から少しでも良い物をと真剣に選んでいると『アジ 少し古い』と頭に浮かんだ。

「は?」

まさか……そんなはずは……!

半信半疑のまま、心の中でステータスと念じる。

「鑑定とアイテムボックスがある……」

声に出してしまって慌てて周囲を見回す。

幸いなことに誰も気付いてはいない。

 

私は急いでカートを取りに行き、もう一度入り口付近の野菜売り場から品物を選び直す。鑑定しながらちょっとでもマシなものをとどんどんカートにぶち込んでいく。

 「やばい、テンション上がる」

山積みになる買い物カゴ。私はカゴを取りに行き、カートの下の段にも乗せた。最近のショッピングカートは持ち手の手前にも買い物カゴや鞄を置けるスペースがある。もちろん私はそこにもカゴを乗せた。

さっきの魚も買い占めだ……と勢い付いたが、急に他の人やお店に申し訳ない気持ちになり、半分買うにとどめる。それでも大量にある。

重い野菜も、そんなに食べる機会の無いかさばるスナック菓子も、米も、安い2Kg入りの冷凍鶏ムネ肉も、今日別に買わなくて良い洗剤まで謎のテンションで爆買いが止まらない。

 

自転車だったから今までは買えなかったけれど、いつもよりたくさん買った。

 

「29480円です」


 これだから……これだから私は……。

 

思ったより散財したのを激しく自己嫌悪しながら、サッカー台の隅の方で誰も見てないのを確認し、カートからショッピングバッグに詰めるフリをしてどんどんアイテムボックスに入れていった。

 

早まった、ちょっと買いすぎた。

 

どう考えてもリュックに入る量じゃない。怪しまれるのではないか。しかもこんなに買ってしまってもしアイテムボックスに全部入りきらなかったら帰り道どうしよう。


ハイ、問題なく全部入りました。

自転車置き場で、誰も居ない事を確認して

手に持ったショッピングバッグもリュックに入れるフリをしてアイテムボックスに収納し、自転車にまたがった。

 

私完全に不審者じゃん。

 

かなりドキドキしたけれど、人の事なんてみんな見ていないらしい。これでしばらくは買い出しに来なくて大丈夫そうだ。


 行きも帰りも軽い自転車に感動しながら家に帰ってきた私は、手を洗って冷蔵庫に食材を移そうとテーブルに取り出そうと手に取った。

「あれ?まだ冷たい」

無料の氷も溶けていない気がする。

 

 まさか……これは、噂の時間停止機能付き?いやまだ慌てる様な時間じゃない。私はビニール袋に入った氷の中から一つだけ取り出してアイテムボックスに入れた。続いて湯沸器で湯を沸かし、計量カップに注ぎ温度計を入れると98度。それをアイテムボックスに入れ10分キッチンタイマーをセットする。


 私はコーヒーを淹れ、それを飲みながら10分待った。

 

 結果、氷は溶けてない!お湯は変わらず98度。

「私は勝ったのだ!!!」

ビバ時間停止機能付き!主婦の憧れアイテムボックスよ!


 今日買った食材は冷蔵庫にうつすのをやめ、冷蔵庫の掃除も兼ねて古い食材を取り出し、テンションマックスで歌いながら野菜スープと肉野菜炒めの下ごしらえを同時進行で始める。

 

「母さんまた大声で歌ってんの?恥ずかしいんだけど。」

キッチンの入り口に冷ややかな目をした息子が居た……。

 

 何にしても凄く便利なスキルを手に入れたと思う。何でこんな力が手に入ったんだろうか!明日からどうしようか、この力を何に使えるかな、とベッドに潜ってぐるぐる延々と考えながらいつの間にかウトウトと瞼が落ちる。

次に目を開けた時見た景色は

 

森の中だった。

「はぁああ?!」

 

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