第4話 おとぎ話ですか?
律さんのお店を出ると、やはり話をされたとおり知らない場所に出た。
振り返り、お店の名前を見る。"夢と笑顔の交換"と書かれた看板が掲げられていた。その看板通り、私の夢も律さんのお話によって交換となった。
そこで私は、自分に問う。人間界で、私はこんな看板のお店を見たのかと。
しかし、思い出せることは全くない。時間の無駄だと、看板から視線を外した。
(さて、さっき話してた
お店の前には柳の大きな木がそびえ立ち、柳の側に大きな池がある。ひらりと風に乗って、柳の葉が落ちていく。
池の前には左右に分かれる道があり、看板も見当たらない。別れを告げて出て来たのは良いものの、どちらに行けばいいのかわからない。
(どっちに行けば良いかぐらい聞けば良かったな)
太陽が雲間から覗き、晴れやかな風が顔を撫でる。空を見上げていると、ガタンッと勢いをつけてお店から律さんが出て来た。
少し焦りも見える律さんに、私の頭ははてなを浮かべてしまった。
「ここ知らないでしょ? 案内してあげるから! それに、ひとりで行っても追い返されちゃうよ!」
「案内してもらえると助かりますけど……ご迷惑では?」
「クククッ。そんな心配しなくていいから〜。さぁ! こっちだよ〜」
律さんが、指を指す方へ歩いていく。一本道になっていて、少し下り坂になっていた。緩やかな坂を下りながら、横に並んだ律さんを見上げる。すると、口元を押さえてあくびをしている。
無言の時が流れる。それなのにどこか柔和で、心が和む。その柔らかな雰囲気に、私は聞きたいことを聞いてみることにした。
「あの、私はなぜここに案内されたのでしょうか?」
「あ〜。……おまつりの言い伝えって聞いたことある?」
「はい! 狐の嫁入りまつりの日には町の子は狐面をつける。付けないと攫われる…… ってやつですよね?」
(たしか……私、お祭りの日だって忘れてて。お面を付けてないけど、早く家に帰っちゃおう! ただの言い伝えだしって思ってたんだよなぁ〜)
そんなことを思い出しつつ、律さんの顔は少し陰りを落とした。呟くような消え入る声で、ぽつりとこぼす。
「そういう話になってるんだ」
「聞いてる話だと、雨が降らなくて
袖口の中で腕を組み、太陽の光を浴びて綺麗に光る瞳を伏せた。少し考えるような仕草を見せる。
しかし律さんは、一瞬で先ほどまでの表情に戻した。
「あ〜、うーんと……ちょっと違うんだよね。九尾の狐って聞いたことある?」
「神様、とかなんとかってやつですか?」
うんうん、と首を縦に振り私の顔を見てニコリと笑った。なんだかその笑みが笑っているのに、背中に冷えるものが走る。
「神様に仕えるって感じなんだけど……九尾になるためには、人の精気を吸うらしいんだよね」
「なんですかそれ?」
「精気は、人が生きる力。それが強い人を嫁に迎え入れる風習が神様に仕えている狐にはあってね。それに選ばれると黒と白の狐に
組んでいた手を外し、ひらひらと振っている。にこやかな表情とクククッと笑う声に、背筋を伸ばした。
その律さんの言葉から引き出されること、それは――
「えっと、まさかそれって……私?」
「おそらくね〜」
「そんな活気あふれた人間じゃ無いです」
そう言われても僕も困る。とでも言いたげに肩をすくめられてしまった。それは、間違いない話だろう。
ふうと大きくため息をついた。
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