第2話 ここはどこ?

「まあ、まずは今の状況の説明が欲しそうだね。僕は、夢食いバクのあやかしここは、妖怪の住まう世界だよ〜。そしてこのお店は、僕が取り出した夢を扱うお店なんだよ」


 そうして、上の棚の瓶たちを指さす。その動きから、あの瓶が夢ということが推測できる。

 


「……妖ですか? 本の中の世界の話か何かですか?」

「うーん、イメージとしては……。うん、まあ、本の中って感じになるのかな?」


 

 少し考えた顔を見せるものの、すぐに笑顔になって手をヒラヒラさせた。


 ここの妖の世界と人間の世界とは、扉で繋がっている。その扉がここにもあるという。

 私は、自分のことを人間界で必要だと感じる人はいないだろうとは感じていた。それでも、なんとか受かった高校。なんとしてでも勉強に遅れを取りたくない。まだ私は、認めてもらえていない。


 


「えっと? それで? 私は元の世界に戻れるんですか?」

「戻れないと思うよ〜。人間界とここの妖界あやかしかいとの扉は3箇所しかない。

 その中の一つがこのお店。ここの扉から人間界に繋がるのは、人間界の6月と11月の2回だけ」



 律さんは、私の後ろにあった扉を指をさして言った。私は、律さんの指の先にあった、入り口の扉を見た。なんの変哲もない茶色の扉。ここの扉から私は、おそらくこちらに来たのだろう。残念ながら、ここの扉を開けた記憶は全くない。


 

 後ろ振り向き、扉を見つめる私に律さんは説明をつづけてくれる。

 


「それがねぇ。繋がる場所でその日に扉を開けても、絶対繋がるとは限らないんだよ。繋がるのはもはや、奇跡的なんだよ〜。ここのお店を長いことやっているんだけど、久しぶりの人間なんだよ? 恋坡ちゃんが」



 "帰れない" ことに対して焦りを覚え、思わず机に手を置き立ち上がる。そして、隣に座る律さんの顔にずいっと寄せて近づいた。私は、戻らないといけない。


 


「そんなぁ、帰れないなんて困ります! いなくなって困る人はいないだろうけど。それでも! 私が困ります!」



 律さんは困った表情になり、立ち上がった私の肩をトントンと叩いて座るように促される。その一つ一つの仕草や話し方、全てに優しさを感じる。


「そう言われてもなぁ。あぁ、そういえば白狐びゃっこ黒狐こくこって言った?」




 私は、その白狐びゃっこというのも黒狐こくこというのも知らない。それでもなんとなく、さっき思い出した白い子と黒い子がそうなのではと考えられる。

 しかし、確証がないので軽く頷くだけにした。

 

 

「それなら、時音稲荷ときねいなりに行ってみたら?」

「え!? それって、人間界? の "狐の嫁入りまつり" で有名なお稲荷さんですよ?」

「うん。そうだね。神様はここにはいないけど。神様に仕える妖たちがここに居るんだよ〜! 白狐と黒狐も時音稲荷に仕える妖だよ!」



 神様に仕える妖。神様に付き従う動物が存在すると、神話を読んだときに書いてあったことを思い出す。その動物の代わりに妖が務めているというのだろうか。



 

 神様の従者ということだろうが、妖がしているとは聞いたことがなかった。妖界あやかしかいは、人間の感覚とは少し違う様だから別の意味が含まれているかもしれない。



「そ、そうなんですね。教えてくれて、ありがとうございます。律さんのおかげで、なんとかなりそうです!」

「お役に立てなら、良かったよ〜」

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