第7章 家族って何だっけ

第1話 結婚式って照れくさい

 こうして僕とマリベルの祝言は、僕のヤケクソのプロポーズの翌日早速行われることになった。実はこうなることを予期して、ランドさんを初め開拓団の人たちは全員いつでも祝言を挙げられるようにしていたらしい。


 なんとマリベルも知っていたということで、知らぬばかりは僕だけだったようだ。もう誰も信じられない!


 朝起きると、僕の隣には立派な花婿衣装が置いてあった。集落で初めての祝言ということで、ランドさんとルディがこっそりいろいろ揃えておいてくれたようだ。どうして僕はそんなことにも気づけなかったんだろう……。


「これ、着ないとダメ……?」

「今更何を言ってるんですか。正装をしない花婿がどこにいるんですか!?」


 早速ミネルバに叱られてしまった。急いで衣装に袖を通すが、やっぱり普段の僕という感じがしない。いつもより上等なシャツに上等な皮のジャケットにベストにパンツ。こんな服、ヴァインバードの家でも着たことがないんじゃないだろうか。


「それにしても、エリク坊ちゃまが、ねえ……」


 僕の晴れ姿を見て、ミネルバは目尻にハンカチを押し当てる。僕の用意が出来たところでヴァインバード家一同が僕の小屋にやってくる。


「まあエリク、すっかり立派になってしまって。母さんは、母さんは……」


 もう倒れそうになった母さんは、早速ルーク兄さんに抱き留められる。うちの人たちは母さんの扱いにかけては手慣れたものだ。


「エリク、これから頑張れよ」

「さすがタウルス高原の開拓団監督だ」


 兄さんたちは口々に僕を褒める。どちらかというと、からかっているような感じもする。でも、今の僕にはその距離感がありがたい。


「あれ、父さんは?」

「団長さんと話があるからって、先に向こうに行ったぞ」


 父さんが僕の晴れ姿を直接見に来なかったのは残念だけど、父さんは昔からそういう人だ。多分、何か考えがあるんだろう。


「さあ、花嫁のところへ行きますよ」


 僕はミネルバを始め皆に連れられて、フロンティア家の小屋までやってきた。僕が小屋の扉を叩くと、間もなく扉は開いた。


 僕は息を飲んだ。


 白い花嫁衣装を着たマリベルは、とても美しかった。

 この子が、今日から僕のお嫁さんになるんだ。

 僕と一緒に、ずっと一緒に……。


「ほらほら、花婿は花嫁を連れて行かないと」


 ぼうっとした頭で、僕はマリベルの手を取る。そして、僕の一族とマリベル、ランドさんとルディで大会館へ向かった。大会館の前には宴の準備が整えられていて、開拓団の皆が集まっていた。それを見て、何だか僕は泣けて泣けて仕方なかった。だって僕とマリベルのために、こんなにたくさんの人が祝福を送ってくれるんだもの。こんな僕のために……。


 いいや、もうそう思うのはやめよう。僕はこれからマリベルをしっかり守っていかなきゃならない。もちろん開拓団のみんなも、モルーカ始めバッファローたちも。いつまでもいじけていたって、仕方ない。


 本当に、これから僕がしっかりしないと。


 媒酌人は、開拓団で一番年長のガレーさんが務めてくれることになった。僕らはガレーさんの前で、夫婦の誓いを立てる。


「新郎エリク・ヴァインバード、新婦マリベル・フロンティア。両名とも、今後いかなる時も互いを愛し信じ続けると誓えるか」

「誓います」

「誓います」


 そして僕らは、誓いのキスをする。もうここまで来たら、恥ずかしいとか全部どうでもいい。ただ僕は、マリベルを愛し抜くって誓うだけだ。それにしても初めての抱擁が誓いのキスだなんて、僕はなんて臆病だったんだろう。ルディに「奥手野郎」って言われたのがじわじわと僕の中に広がっていく。


 確かに僕は何をするのも引っ込み思案なところがあるし、最近はそういうのはいけないってなるべく直すように努力している。でもこんな形でマリベルを抱きしめているということは、僕はまだまだ修行が足りないな。もっともっと立派な男になって、マリベルを抱きしめるのに相応しい男にならないと!


 その場にいた皆が祝福の声をあげた。うう、僕はなんて幸せ者なんだ。こんなに可愛いお嫁さんが出来て、守るべきものがたくさんあって、そして皆に僕が必要とされている。こんなに嬉しいことってあるもんか!


「さて、ささやかだけど皆で若い二人を祝福しようじゃないか」


 それから大会館の前で、僕らを祝う宴が始まった。そう言えば、立派なご馳走を作る用意があるなあと思っていた。てっきりヴァインバード一家が来るから盛大にもてなすものだと勝手に思っていたのだけど……ああ、ますます自分が嫌になってくる。


 でも、開拓団の人たちが心をひとつにして何かをしているっていうのはいいなあ。


 最近では大会館の夕食も全員そろって食べることはしなくなった。人数が増えたから、時間をずらしたりそれぞれの小屋に持って帰って食べたりしているからみんなの顔を一度に見る機会っていうのはあまりなくなってきている。


 僕は男連中に散々絡まれた。ほぼ全員から「いつマリベルに告白するのかと思っていた」と言われ、弁解の余地もなく僕はひたすら小さくなっていた。兄二人は何故か僕をダシに開拓団の人たちと仲良くなっている。


「エリクをよろしくね」


 母はずっとマリベルと話をしていた。僕がどれだけ可愛いか、そして大事な存在だったかということを切々と訴えていた。それをうんうんとマリベルが聞いているのを見ていると、恥ずかしくて見ていられない。


 でも、不思議な感覚だ。僕の母とマリベルが一緒の空間にいて、話をしている。しかも、これから二人は親子の関係になるんだ。僕もランドさんのことを正式にお義父さんと呼ばなきゃいけないんだろうか。そしたら、ルディは義兄になるんだよな。


 マリベルがヴァインバード家の一員になるっていうのと同じく、僕はフロンティア家に入ることになるんだ。フロンティア家のみんなとはもう家族も同然だと思っていたけど、本当に家族になれたんだ。


 なんだか、いまいち実感がない。変な気分だなあ。


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