第3話 見つかったバッファロー
右手から初めてのバッファローを出した僕がおろおろしているところに、開拓団団長のランドさんの息子のルドルフがやってきた。
「ええと、それは……牛?」
ルドルフは明らかに困惑していた。そりゃそうだ、見たこともないデカい動物がいきなり目の前にいるんだからな。
「牛、うん、牛かな?」
僕はもう一度バッファローを見る。こいつは僕が前に住んでいた世界にいた動物で、この世界には存在しない動物のはずだ。それなら、新種の動物ということにしておいたほうがいいかもしれない。
「ふぅん……」
ルドルフは僕とバッファローを交互に見比べた。
「いろいろ気になることが多いんだが……まず、君の体調は良くなったのか?」
あ、そう言えば僕は高熱を出して寝込んでいたんだった。バッファローでそれどころではなかったけど、今は体調は随分と良くなっているようだ。
「ああ、具合は良くなったよ」
「それはよかった。それと、その牛はどこから来た?」
ああ、やっぱり気になるよな! いきなりこんなデカい牛が出現したら、誰だって気になるよ!
「ええとね……」
僕は迷った。正直に話しても信じてもらえないだろうし、僕がおかしい奴扱いされるだけだ。だけど、どう誤魔化せばいいのかもよくわからなかった。
「信じてくれる、かい?」
「何を?」
とりあえず、僕はルドルフを信じてみることにした。目の前でもう一度バッファローを出せば、信じてもらえるかもしれない。それに、僕自身が自分を一番疑っている。
「この牛、僕が出したんだ」
「何をふざけたことを」
ルドルフは笑っている。ただの冗談にしか聞こえないだろうな。
「まあ見てろよ」
僕は右手を突き出して、例の呪文を唱える。今度は子供のバッファローがいいかもしれない。
「バッファローさんバッファローさん、おいでください」
するとまた僕の右手が光り、目の前に小さめのバッファローが現れる。子バッファローは先ほど出したバッファローにすり寄った。
この光景に、ルドルフは持っていたウサギを地面にぼとりと落とした。
「もう一回やろうか?」
僕はもう一度、バッファローを呼び出した。今度は大きいバッファローがいい。そう考えると、先ほどよりツノも立派で大きなバッファローが現れた。
「君は一体、何者なんだ?」
驚いているルドルフがようやく口をきいた。へへ、どうだ参ったか。
「僕はオズワルド・ヴァインバード子爵の三男、エリク・ヴァインバードだよ」
「そうじゃなくて、その……手から、牛が……」
ルドルフはまだ信じがたいという表情をしている。正直なところを言えば、僕も未だに自分が信じがたい。
「ああ、これは……僕もよくわからない」
「わからない!?」
まさか夢のお告げで牛を出せるようになったなんて話をしても信じてもらえないだろうし、僕がもしかしたら罪人の生まれ変わりかもしれないという話なんかしたくなかった。
「わからないんだけど……右手から牛が出せるなんて、みんなに知られたら恥ずかしいだろう……? だからこのことは二人の秘密ってことにしてもらいたいんだけど」
あまり事を大きくしたくなかったので、僕はルドルフにそうお願いすることにした。
「そうか、牛が出せたら俺も……嫌かもな……わかった、君が牛を出せることは当分誰にも言わない」
ルドルフも自分の右手をしみじみ眺めた。便利だとかすごいとか、それ以前に自分が気持ち悪いし他人に知れたらどんな悪用をされるかわかったものではない。とりあえずこの複雑な心境を彼にわかってもらえてよかった。
「でもこの牛はどうするんだ? 見たこともないぞ、こんな種類の牛は」
そうだ、バッファローたちをどうするか考えなければいけないな。
「どうしよう……野生で群れを作っていたところを偶然見つけた、ということにしようか」
「でも野生の牛の群れが都合良くここまで来ると思うか?」
僕たちはバッファローの前でうんうん唸った。早くしないと村の男たちが小屋の前に帰ってくる。そうすると、また僕はみんなの前でバッファローを出すことになってしまう。そういうことは、あまりしたくない。何より、恥ずかしいし。
僕の出した子バッファローは最初に出したバッファローから乳をもらって、僕のところに戻ってきた。僕の出したバッファローは親子だったのか。
「あ、こいつ何するんだ!」
子バッファローが僕に頭をすり寄せてくる。それを見て、ルドルフが笑いながら言う。
「この子牛は君に懐いているみたいだから、このまま集落のはずれまで誘導しよう」
「ええ、僕が行くの!?」
体調は良くなったとはいえ、高熱を出して数日寝込んでいた僕の体力はほとんどなかった。今こうして立っているだけでも少しふらふらする。
「君以外無理だろう? さあ行くぞ、エリク」
「で、でもまだ身体が……」
「歩けなくなったら背負ってやるから」
ルドルフにそう言われて、僕はむっとする。僕もとことん落ちぶれたものだ。
「でも、その……ルドルフ君も負担だろう?」
「ルディでいいよ。いつも妹を背負って遊んでいるから大丈夫だ、俺を信じてくれ」
ルドルフ――ルディに真っ直ぐそう言われて、僕はなんだか恥ずかしくなった。こいつ、悪い奴じゃないんだろうな。
「じゃあ、その時は頼むよ」
僕はルディと一緒に三頭のバッファローを小屋の周辺から連れ出すことにした。
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