第4話 歓迎会がなんだってんだい
僕はマリベルに案内されて、歓迎会が開かれるという大会館へやってきた。それから僕はランドさんに連れられて、大会館の一番奥の席に案内される。大会館に入った僕を、開拓団の人たちが一斉に注目する。うう、やっぱり恥ずかしい。
大会館の中にテーブルはなく、大勢の人が敷物をしいた床の上に置いてある料理の皿を囲んでいる。何だか、ここは本当に何もないところなんだなあ。この前まで都会に住んでいた僕は少しだけ寂しい気分になった。
「エリク様、しっかり」
先に歓迎会の準備に向かったミネルバの声が聞こえた。この数時間で彼女はすっかり開拓団の人と打ち解けたのか、女の人たちの中にすっかり溶け込んでいる。僕はと言えば、どうしていいか全くわからない。おろおろ辺りを見回していると、ランドさんが僕の紹介をしてくれた。
「今日から開拓団の監督としてこのタウルス高原に住むことになった、エリク・ヴァインバード君だ。オズワルド様のご子息だが、私たち開拓団の一員に変わりはない。皆、仲良くしてやってくれ」
「……よろしくお願いします」
ランドさんに続いて僕が挨拶をすると、開拓団の人たちはぱらぱらと拍手をしてくれた。
「さあ、最初の日くらい大いに盛り上がろうじゃないか」
固まっている僕の背中をランドさんが叩く。ああ、もうどうしていいかわからないよ! 周りをキョロキョロ見ていると、僕のところに大皿を持った女性たちが集まってきた。だいたい僕の母と同じくらいの年齢だろうか。
「オズワルド様のご子息ってことは、ノヴァ・アウレアから来たのかい?」
僕の皿にいつの間にか大量の料理が置かれている。何だろう、これはよく煮た豆かな。ここしばらく味気ない旅の携帯食が続いていたので、温かい食事に僕のお腹が鳴る。
「はい、余所へ来るのは初めてです」
「じゃあリオカナールへは?」
あっと言う間に首都の隣の街の話になってしまった。僕はあんまり外へ出たことがないからよくは知らない。
「僕はあまりそこには詳しくなくて……」
「あら残念、うちの親戚がリオカナールにいたのよ」
えーと、こういう時に僕はなんて言えばいいんだろう?
「じゃあ、アクアカンタには?」
やっぱり僕がおろおろしているうちに話が進んでいた。
「そこにはうちの親戚がいるのよ」
「あらやだー! うちはねー!」
女性たちは僕に構わずお喋りをして笑っている。これは僕の歓迎会、なんだよな……? 僕が固まっていると、話題は更に次に移ったようだった。
「エリク様、ブルームホロウからの山道はどうでした?」
ブルームホロウはタウルス高原の仮集落に至る前の最後の中継地のような村だ。そこから道があってないような場所を馬車でガタガタやってくるわけだ。最後の揺れはかなりキツかった。
「ああ、ちょっと疲れたかな」
素直に感想を言うと、矢継ぎ早にお喋りが飛んでくる。
「そのうち慣れますよ、麓まで何往復もしますからね!」
「山道用の馬の手綱も覚えておいてくださいね!」
ええ、僕が馬の手綱をとるのか……って、開拓地にいたら、そういうこともしなくちゃいけないよね。僕に出来るのかな。
女性たちは何だかんだとお喋りをして、今度はミネルバを囲んで何だかんだと始まった。女のお喋りはよくわからないや。男の人たちもいるけど、それぞれお酒を飲みながら話していて、僕に興味はないみたいだ。
……やっぱり、僕が何をすればいいのかわからない。
一応子供の姿もある。10歳に満たない子が数人、それとさっきのマリベルとルドルフだ。僕と一番年が近いのは……ルドルフだろうな。でも彼はさっきからちっとも僕の方を見ない。でも男連中の輪に入っているわけでもない。黙々と料理の皿の上の物を片付けているだけだ。僕もそうしよう。
僕がもらったガチョウの肉を無心でちぎって食べているうちに、隣にルドルフが座った。何の用だろう?
「君の年はいくつだ?」
年齢を聞かれるとは思っていなかったな。
「僕は、十五歳だ」
「俺は十六歳。君より年上だ」
なんだこいつ、偉そうに。
「そうか、それなら頼りになるな」
「そうかもな」
それで会話は終わってしまった。それから、少しだけ静かな時間があった。僕ら、あんまり気が合わないのかもしれないな。
「勘違いするなよ、父さんに言われたからお前の隣に座ってるんだからな」
何だこいつ。
やっと喋ったと思ったら、全く可愛くないぞ。
「せいぜい足を引っ張るなよ」
「余計なことはするつもりはないよ」
それからランドさんとマリベルがやってきて、僕はこの気まずさから解放された。マリベルは人なつこいし、ランドさんは団長というだけあってとても頼もしそうだ。それなのに、その息子は一体なんだ。もう少し歓迎してくれたっていいだろ、僕の歓迎会なんだから。
その日の夜、僕の歓迎会は特にこれと言ったことはなく終わった。僕はミネルバと小屋に帰って、そしてこれから一体どうやって開拓団に馴染んでいけばいいのか悩むことになった。
「ご心配されているようですけど馴染むより慣れろ、ですよ」
無責任にそう言って、ミネルバはさっさと床に入ってしまった。これから先やっていけるのだろうかと不安で不安で仕方なかったけれど、旅の疲れが出たのか僕はその夜ぐっすり眠ってしまった。
彼女の言うとおり、とにかく生活していくしかないんだろうな。
このタウルス高原を、僕の居場所にするために。
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