第3話 開拓なんてできるのかな
ようやくタウルス高原に辿り着いた僕とミネルバは、これから落ち着く小屋に荷物を運んでいた。
「しかし小屋に
ミネルバがせっせと荷ほどきをしながら、あれこれとこれからのことを話していく。
「エリク様のお仕事は、開拓の進捗の報告書と計画書の作成ですからね」
そう言って、ミネルバは小屋に据え付けられていた書き物机の上に、持ってきた書類の束をどんと置く。
「うーん……でも僕に出来るかなあ」
「最初はランド殿と一緒に進めてください。今までは書類仕事も全てランド殿が引き受けていたのですよ」
そうなんだ……開拓で忙しいのに、書きものまでやっていたなんて。すごい人なんだなあ。
「あのさ、ランドさんってどうして団長に選ばれたのか知ってる?」
「詳しくは存じ上げませんが、森林監察官をされていたそうです。開拓の話が出たとき、是非にとランド殿が団長に名乗りを上げたそうですよ」
うーん、やっぱり知らない土地を開拓をするってくらいの人だから意欲もたっぷりあるんだろうな。せめて僕が足を引っ張らないようにしないと。僕がぼんやりしている間に、ミネルバはてきぱきとこれからの寝床や何やらを決めてしまった。流石凄腕の家政婦長の名前は伊達ではない。
「さあ、寝る場所は確保出来ました。後は本当に歓迎会までお休みになられていて大丈夫ですよ」
ミネルバから歓迎会という言葉を聞いて、僕はまた憂鬱になった。
「やだなあ……知らない人に挨拶するの、緊張するんだ」
「何を言ってるんですか。私は今から歓迎会の手伝いに行ってきますからね」
そう言ってミネルバは小屋から出て行こうとした。
「ちょっと待って、ミネルバも歓迎される側だろう? だったら準備は」
「私はいいんです! 早くから私が皆さんに馴染まないとエリク様の今後に関わりますから!」
またミネルバにぴしゃりと言い切られてしまった。
「とにかく! 私は大会館へ行きますからね! エリク様は今までの報告書でも読んでいてください!」
ひー……彼女には逆らわない方がいいんだよな。兄さんたちもよく叱られていたっけ。僕は首をすくめて、エプロン片手に炊事場に向かうミネルバを見送った。実は僕以上に、彼女の方が張り切っているのかもしれないな。
「じゃあ、今までの報告書でも読むか……」
ひとりになった僕は、タウルス高原の開拓事業について書かれた冊子を手に取る。
「広大な平原は農地や牧草地としての活用を見込まれるが、タウルス高原特有の気象により活用に困難を有した、か……」
僕だってここに来るまで、少しはタウルス高原について勉強してきたつもりだ。
アルドリアン領内でタウルス高原が発見されたのはごく最近、数十年前のことだった。それから高原を活用しようという事業が持ち上がったが、タウルス高原の厳しい気象環境が容易な移住を妨げていた。
タウルス高原最大の特徴は、時折山脈から吹き下ろす強風だった。その風は嵐のように高原を抜けるため、高い木が高原には生えていない。特に冬の時期は連日激しい嵐のように風が駆け抜け、耕作や酪農には向かないとされていた。
「不毛の地タウルスに光を、とは言うけどね」
僕は冊子を置いて、窓の外を見る。仮集落は高原のはずれに位置する森に沿うように作られていて、強風の影響が少ない。先発隊が井戸と小さな畑、そしていくつかの建物を建設して仮集落が完成したところで僕がやってきたというわけだ。
「一体僕に何ができるって言うんだろう……」
こんな病弱で後ろ向きな子供が増えたところで、開拓団としても迷惑なんじゃないだろうか。ぼんやり報告書を読んでいると、いつの間にか太陽が山の向こうに入ろうとしていた。ますます僕の不安を後押しするような光景を眺めていると、急にどんどんと小屋の扉が叩かれた。
「エリク様!」
「わ!」
扉を叩いた主からいきなり大声をかけられて、僕は椅子から転げ落ちそうになった。
「えーと、君はマリベル、だっけ?」
確かこの子は開拓団の団長、ランドさんの娘さんだったはずだ。栗色のお下げの少女はにこにこと僕に手を差し出す。
「驚かせてしまってすみません。歓迎会の準備が出来ましたのでご案内します!」
そうだ、歓迎会があったんだ。僕はマリベルに連れられて、会場になっている大会館へ向かうことになった。その途中で、彼女に仮集落を簡単に案内してもらう。
「あそこが井戸。あっちがカーペンターさんとゼルタスさんの家。それと倉庫小屋に馬小屋、あっちも倉庫で……あそこがうちだよ!」
次々とマリベルは仮集落の建物を指していく。まだ小さい仮集落で、僕が建物について覚えることはそれほどなさそうだった。
僕たちはすぐに目的の大会館へ着いた。集会所のような大会館に、仮集落の人々が全員集まっているようだ。外にまで夕餉のいい匂いがしてくる。そう言えば、少しお腹が空いてきたな。
「やあエリク君。よく来てくれたね」
「はい……」
大会館ではランドさんが僕を迎えてくれた。その向こうに、開拓団の人たちがずらっと並んでいるのが見える。うう、緊張してきたな。
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