第30話 久々に父と会う


 実家にいても娯楽は少ない。


 ゲームを買ってくれるような

 家じゃないし、

 遊んでいても怒られるからな。


 鍛錬鍛錬。

 とにかく鍛錬だ。


 と言っても八雲は

 妹の修練があるので

 俺は個人鍛錬をすることに。


 俺の術式――。

 ”影”は沈み込む。


 怖くて中になにか収納とかは

 いままで出来なかったけど……。


 内部をある程度操作できれば

 【収納】と同じ効果が得られるはずだ。


 そんなわけで新たな鍛錬法。

 釣りである。


 釣りと言っても普通の釣りじゃない。

 影に釣り糸を垂らし、内部を把握するのだ。


 しかし……そもそもほっとくと


 漏れ出る影の制御から

 しなければならないのは

 大変だった。 


 俺ってまだまだ

 術式を制御できてないよな

 と思う。


 まぁ七歳なんだからセーフだ。

 術式の運用だけなら

 まだ半年も経ってないわけだし。


 そんなわけで

 黒孔雀を抜きっぱなしにして

 影を維持する特訓を始めた。


 七日経ち――。

 父さんが帰ってきた。

 いつものコートが

 少しばかり薄汚れている。


「珀斗ォー!!」


 おっさんに抱きつかれるのは

 ちょっとうっとおしいが

 ここは我慢だ……。


 産んでもらった恩があるからな

 父さんは産んでないけど。

 どっちかっていうと出しただけだけど。


「へぇ、面白い鍛錬法だな」


 俺が鍛錬場でやっていることを聞いて

 うんうんと頷く父さん。


「父さんは普段の仕事

 何やってるんだよ」


 術式とか

 色々聞いてみたかったが

 まずそれを聞きたかった。


「私か? まぁ幻獣を斃したり

 幻術師を捕縛したりだな、うん」


「俺と変わらないのか」


「まぁ国益のための

 仕事も少々するが……

 それは秘密だ! ハッハッハ!」


 国益……。

 そういえば幻術師って

 この国以外にもいるのかな。


 いるとすれば軍隊など

 まるで役に立たない幻術師同士が

 国家間でしのぎを削っていることになる。


「もしかして

 この国以外にも

 幻術師っているの?」


「おっ! 偉い質問だな!

 シャーマン、エクソシスト、魔術師……

 まぁ呼び名は違うが存在する。

 やはりその数は希少だがな」


「じゃあ国家間の

 戦いもあったりするんだ?」


「ふむ……まぁ我々

 幻術師には通常の人類は

 太刀打ちできないからな。


 そういうこともある」


 やっぱりあるんだ……。

 というかそういうのが

 父さんの仕事のメインだろうな。


 しばらく家に戻ってこれないのも

 仕方ないと思えた。


 なんせ公安以上に

 希少で大変な仕事なわけなのだから。


 俺が難しい顔をしていると

 父さんが頭を撫でてきた。


「まぁそういうのは

 我々大人の仕事だ。

 子供は幻獣を主に狩るがいいさ」


「と言っても俺

 幻術師をもうすでに1人

 殺してきちゃったけどね……」


 そう言うと父さんは

 眉間にシワを寄せた。


「まぁ、この仕事は

 そういうこともある」


「なんか人攫いの連中だったよ

 そういう連中の捜査も

 父さんたちがやってるの?」


「ああ……

 少々大きい幻術師集団が動いている

 マフィア、と呼んでいい連中がな」


「なるほどね……

 そいつらの名前は?」


 う~~む、と

 腕組みをして父さんが唸る。

 どうやら俺に教えたくないようだ。


 だが結局は必要だと思ったのか

 その重い口を開いた。


「”幻夢”という連中だ

 もしそれらしき奴らと遭遇しても

 無茶はするな。生存を第一に考えろ」


「あ、ああ……」


 どことなく重々しい空気。

 それに耐えられくなった俺は

 つい軽口を叩いてしまう。


「そういえば父さんの

 術式ってなんなの?

 知りたくてさ」


「私か? まぁいいだろう。

 私の術式は……」


 ニンマリと笑いながら

 腰の刀を抜く父さん。

 そこからは墨のようなものが滴る。


「”闇”だ」


 俺とだいぶ似てるな……。







 


 

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