関西のおっちゃんの三種?の神器⚔️
入江 涼子
第1話
あたしは関西圏の小さな町に住んでいるが。
ついこないだ、オトンからおもろい事を教えてもらったんや。何でも、関西のおっちゃんには三種の神器ってもんがあるらしい。まー、詳しい意味は教えてくれへんかったけど。
昼間になり、あたしは近所に住むあるおっちゃんを訪ねた。テッちゃんとオトンや仲の良い人らはそう呼んどる。
「……こんにちは!」
「おう、ロウちゃんとこのチビか。よう来たなあ」
「おっちゃん、あたしは子供ちゃうで。もう、三十路やのに。チビはないやろ」
「すまんって、涼ちゃんがちっこい頃言ったら。つい、こないだみたいな感じでな」
「まあ、ええわ。それより、おっちゃんに聞きたい事があんねん」
あたしが切り出すとおっちゃんは目線で答えを促した。おもむろに言うた。
「あの、オトンが言ってたんやけど。関西のおっちゃんには三種の神器言うのがあるんやて。どう言う意味なんかようわからんねんな。おっちゃんは何か知らへんか?」
「……関西のおっさんの三種の神器かいな、ちょっと待っとってくれ」
「え、おっちゃん?!」
おっちゃんは慌てて、おったリビングから奥に引っ込んでしもた。あたしはしゃあないから、待つ事にしたんやけど。
しばらくして、おっちゃんがスマホ片手にリビングに戻って来た。ちょっと、真剣な表情になっとる。
「おう、涼子ちゃん。おっさんの三種の神器やけどな」
「うん」
「それ、ほんまは。三種やのうて
おっちゃんはそう言って、ガハハとわろた。あたしは拍子抜けしてもたわ。オトン、ええ加減な事を吹き込まんといてえや!
言うた相手がおっちゃんやったから、良かったけど。こんなん、友達に言うたら。ごっついアホにされてまうやん!
あたしは内心でオトンに盛大に文句をぶちまけた。
「まあ、そう落ち込むな。何やったら、おっちゃん特製の美味いたこ焼きを作っちゃる」
「……分かった、オトンのもお願いするわ」
「おう、任いとけ!」
おっちゃんはにかっと笑う。台所に行き、たこ焼き器を出したりとテキパキと準備を始めた。
あたしはおっちゃんが手早く作ってくれたお手製のたこ焼きを両手に抱えながら、帰宅した。
「ただいまー!」
「おう、帰って来たんか」
「うん、テツのおっちゃんとこに行ってたんやわ。んで、たこ焼きをもらってきた」
「そうか、道理でええ匂いがするわけや。わしの分もあるか?」
「あるで、ほら」
あたしは靴を脱ぎながら、右手を掲げた。オトンは頷く。
「ホンマや、テッちゃんのたこ焼きやな。アイツの作る飯は美味いからなあ」
「せやな」
上り框から廊下にあがった。オトンがいる台所に入る。テーブルにもらって来たたこ焼き入りの容器を置く。おっちゃん、丁寧にプラスチック製の容器に1人前ずつ分けて盛り付けてくれたんやわ。あたしは洗面所に行き、軽く手を洗った。
タオルで水気を拭き、台所に戻る。
「……なあ、オトン」
「どないした?」
「あたしに今朝方、関西のおっちゃんには三種の神器があるとか言ってたやん。それ、どないしても気になってな。テツのおっちゃんに訊きに行ってったんや」
「え、ホンマに訊きに行ったんか!」
「うん、そしたらな。おっちゃんはこない言うてた。「三種やのうて三臭やな」って。要はけち臭い、説教臭い、年齢臭をジョークにしてるとか聞いたんや。何であたしに詳しい事を言うてくれへんかったんよ!!」
あたしはつい、大声で文句を言ってしもうた。オトンは眉を八の字に下げ、何とも言えない顔になった。
「いや、すまん。わしもお前がそないに怒るとは思わなんだ」
「……あ、ごめん。それより、たこ焼きを食べよう!はよ食べんと冷めてまう!」
「……せやな」
あたしは慌てて、話題を無理やり変えた。オトンもそれ以上は何も言わへんかった。
たこ焼きを食べた後、改めてあたしはオトンに謝った。オトンも「元はというたら、わしにも悪いところがあるさかいな」と言ってくれた。
あたしは自室に戻る。ベッドのサイドテーブルに飾ってあるオカンの写真を見た。
オカンは今はおらへん。あたしがまだ、赤ん坊の頃に亡くなった。それ以来、オトンとあたしの二人きりや。まあ、寂しくはあるけど。
オカンにあたしは胸中で話し掛けた。
オカン、あたしも三十八になったんや。早いわなあ。
せめて、オトンやあたしの事を見守ってやあ。
そない言うたら、写真のオカンがにっこりと笑うように見えた。あたしは鼻の奥がツンとなるのが分かる。ガラにもなく、目から汗が出そうになったわあ。
ほな、もう夜も遅いし。寝よっか。あたしはオカンに「おやすみ」と言って自室の明かりを消した。
――終わり――
関西のおっちゃんの三種?の神器⚔️ 入江 涼子 @irie05
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