第6話 猫、カラスを忘れる
以前に餌を盗み食いした時に置き場所を変えられてしまったが、猫にとってはそんなのは些細な事だ。鼻をヒクヒク動かして餌の匂いを辿る。
以前あった場所の隣の戸棚に移されていた。猫は前足を取っ手に引っかけ体を使って扉を引く。ガコンという音とともに戸が開いた。
『あったあった』
猫は前足で口を押さえ、笑いを堪える。クリップで口を閉じられた袋を引っ張り出す。前足から爪を少し出して袋に引っかけると豪快に穴が空いた。
中身がポロポロと零れる。猫は嬌声をあげ、飛び出した餌を口に含んだ。歯を立てるとカリッと音が鳴る。猫の顔はそのおいしさに緩んでいた。
《ゴミガ落チテイマス。ゴミガ落チテイマス。吸イ込ミマス。ヨロシイデスカ》
ユニアルが両手を回転させ猫に近付く。猫は餌を隠すようにユニアルに尻を向けた。
『おい、横取りすんなよ! オレのだぞ!』
唸る猫にユニアルはさらに警告を発する。
《ゴミガ落チテイマス。ゴミガ落チテイマス》
『ゴミじゃねぇよ!』
猫は前足でユニアルの手を払いのけ、床に転がった餌をかき集めた。
その背後で、ガサガサと袋の中をまさぐっている音が聞こえた。またユニアルかと猫は般若のような険しい顔で振り返った。
『なんでお前が!』
そこにはカラスがいて、袋に入った餌を一粒ずつくちばしでついばんでいた。
あまりにもおいしいご飯にカラスの存在を忘れていた。自分が何の為に餌を出したのか思い出し、猫は自分の浅はかさに落胆した。
『おい、あっち行け!』
猫が威嚇する。カラスが猫のほうを向いた。カア、と力強く鳴く。猫は驚きに一歩後ろに下がる。離れた場所からカラスを睨み付けるしかできなかった。
カラスは猫を無視して食べ続ける。まるで猫など眼中ないようにカラスは平然としていた。
『このやろう。無視しやがって』
猫は喉を鳴らし低く唸る。カラスは煩い虫でも払うように猫に向けて一つ鳴き声を浴びせた。
猫は再び驚きに背後へと飛びのいた。着地に失敗して床に転がる。慌てて起き上がり、玄関の靴箱の影に隠れた。
『オレの餌が……』
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