第三章 猫とカラス

第1話 猫、カラスに出会う

 その日はとても良い天気だった。ユイカはすでに家を出ており、部屋には一匹と一体が残されていた。

 猫は前足で顔を撫で、顔の回りを舐めてからキャットタワーを飛び降りた。ゴミを吸い込む作業に勤しむユニアルに尋ねる。

『よう。調子はどうだ?』

《オハヨウゴザイマス。問題アリマセン》

 ユニアルは答えるとすぐにゴミを吸い込む作業に戻る。猫は不満げに顔をしかめ、尻尾を一度床に叩きつけた。

『おいおい。お前はオレに聞いてくれないのか?』

《ナニヲデショウカ?》

『なにをって、挨拶だよ。今、オレがお前に調子はどうだと訊いただろう?』

《ハイ》

『訊かれたらお前も相手に訊き返さなくちゃならねぇ。それが礼儀ってもんだ』

 ユニアルはランプを交互点滅させた。

《承知シマシタ》

 動いていた両手を止め、猫の方へ向き直る。軽快な音を響かせた後、言葉を発した。

《ヨウ。調子ハドウダイ?》

 自分の言った言葉をそのまま返された猫は片方の眉を上げた。

『……調子は良いぜ。毛並みも良いし、飯も上手い。おまけに融通の利かない頭でっかちと話ができて最高だぜ』

 含んだ笑みを見せ、猫は尻尾を揺らす。ユニアルは猫の言った言葉をそのままに捉える。

《ソレハ良カッタデス》

 両手を回転させてゴミを吸い込む作業へと戻る。

 嫌味の一つも通じないユニアルに、猫は深い息を吐いた。

『まったく。冗談も通じないのかよ。おい、いいか? オレの口調を真似するな。自分の言葉で話せ』

 ユニアルは手を止めて再び猫に向き直る。

《ナゼデショウカ?》

『なぜって、まるで俺が言わせたみたいじゃねぇか。こういう挨拶はな、お互いがお互いを想いやって言い合う言葉なんだぜ?』

《ワタシノ話シ方ハ可笑シカッタデスカ?》

『おかしいっていうか、お前らしくない口調だった』

 猫はぶすっとしている。ユニアルはランプを交互に点滅させた。

《承知シマシタ。ソレデハ言イ直シマス。オハヨウゴザイマス。調子ハイカガデショウカ?》

 丁寧に、ユニアルらしい口調だった。猫は一度頷き、ヒゲをピンと伸ばして満足そうに笑う。

『それでいい』

 猫はご機嫌になり、その場に横たわる。舌を出していつもの毛づくろいを始めた。ユニアルはそんな猫をカメラからじっと見た後、手を動かして掃除へと戻る。お互いのいつもの日常が始まった。


 ―コンコン。

 窓を叩く音が響いた。

 猫は毛を逆立てて飛び起きる。音の方に目を向けた。

 そこには真っ黒な鳥が部屋の中を窺いながら、鋭く伸びたくちばしを窓ガラスに叩きつけている姿があった。

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