第6話 猫、アイツに退去を命ずる

 ユニアルは再びカンジに近づいていく。猫は物陰に隠れて行く末を見守る。

「あれ? また来たよ」

「まぁ、動き回るタイプの掃除機だからね、ゴミでも見つけたんじゃないかしら」

 カンジのそばで止まると、ユニアルは猫に言われた通りの事を述べた。

《アナタニハ、即刻退去ヲオ願イシタイト思ッテイマス。ココハ彼ノ縄張リデス。侵入者ハ即刻退去ヲオ願イシマス》

「え?」

 ユイカもカンジも唐突に発せられたユニアルの言葉に唖然としていた。二人は顔を見合わせ、どう反応するべきかを考えている。

 ユイカが戸惑った声色でユニアルに話しかける。

「どういう事? あなたのお仕事はお掃除とペットの翻訳だったと思うけど?」

《彼ニ命ジラレテイマス。ワタシハ彼ノ舎弟トイウモノニナリマシタ。コノ方ニ退去シテイタダカネバナリマセン》

「彼って、あの子の事?」

 ユイカは猫を指差した。ユニアルは「ハイ」と答えた。再びユイカとカンジは顔を見合わせた。戸惑いから徐々に顔は緩み、大きな声で笑い出す。

「嫌だ、この機械ったら、猫の言う事も聞くのね」

「びっくりだよ。まるでSFの世界だ」

「まったくあの子ったら」

「いつも俺を見ると隠れるか威嚇するかのどちらかだから嫌われているとは思ったけど、まさかここまでされるとは思わなかった。ここまで嫌われているのか」

 苦笑しているわりにはカンジの顔は悲しそうには見えなかった。きっと命じ主が猫というのが面白くて仕方がないのだろう。

「ねぇユニアル。あのね、この人は私の大切な人だから追い出さないでくれる? 追い出したら私は悲しいわ。できればあなたもあの子も、この人と仲良くなってくれたら私は凄く嬉しい。あの子にそう伝えてくれる?」

 ユニアルはランプを交互に点滅させた。

《承知シマシタ》

 ユニアルはくるりと反対を向くと猫の方に向かった。物陰で見ていた猫はほんの少し体を揺らした。

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